【醸し人】#11 中善酒造店 杜氏・山口孝さん

人を大切にした酒造りを

「中乗(なかのり)さん」の銘柄で知られる中善(なかぜん)酒造店(木曽町福島)。「酒造りで受け継がれてきた『和醸良酒(わじょうりょうしゅ)』という言葉そのものがこだわり」と、杜氏(とうじ)の山口孝さん(48)は笑顔を見せる。
上松町の自社栽培や松川村の契約農家などの酒米を、酒蔵正面の横井戸から湧き出る、御嶽山系の伏流水で仕込む。軟水で発酵が穏やかになるため、まろやかな味が特長だ。
「うまみがあり、さらっとキレのある味が理想。夫婦で飲んでおいしいと思えるお酒を造りたい」という。
広島県出身。高校卒業後、地元の酒蔵に機械の修理工として就職。後に蔵人となり同県内の酒蔵で働いた。
木曽への移住は結婚がきっかけ。登山が趣味で北アルプスを訪れた際、当時、大町市のそば店で働いていた現在の妻・弘美さん(47)に一目ぼれ。自身が醸した酒を贈って交際開始。蔵人を募っていた中善酒造店で2010年から働き、16年の杜氏就任と同時に結婚。染色作家の弘美さんも酒造りに加わった。
広島では厳しい杜氏の下で働き、木曽でも根を詰めた孝さん。5年前、弘美さんが業務過多で体調不良になり、考え方を変えた。仕込みや醸造方法を見直し、休みが取れるように工夫。蔵内や道具の掃除などを徹底して行い、環境を改善した。
また、味の面でも醸造体験に訪れた20代女性の意見を参考に、それまで否定していた苦味や酸味もアクセントと捉え、それに合う料理を考えるなど発想を転換。さまざまな体験が酒造りに生きている。
「昔は酒造りに合わせて生活したが、今は人を大切にし、生活に合わせた酒造りをしたい」。和気あいあいと造ることがうまい酒を醸す。「和醸良酒」の蔵でありたいと願っている。

【沿革】
なかぜんしゅぞうてん
 1865(慶応元)年創業。当初の銘柄は「山桜」「木曽の駒」。1885(明治18)年、酒造業を廃業し、小売り専業に。1924(大正13)年、酒造業再開。翌年銘柄を「中乗さん」に。2002年、全国新酒鑑評会で初めて金賞受賞(以後、入賞多数)。19年、限定流通の新ブランド「善吉」を発売、22年、売店をリニューアル。

【山口さんおすすめこの1本】
中乗さん 特別純米(美山錦)(720ミリリットル1540円、1・8リットル2915円)

【相性のいい料理】
山菜の天ぷら、季節の鍋料理

【連絡先】
中善酒造店TEL0264・22・2112