気持ちを高めたり落ち着けたりと、生活を豊かにしてくれる「香り」。しかし近年は人工的な香りで体調を崩す子どももいるなど社会問題になりつつあり、国も配慮を求める動きを見せています。関係者に話を聞きました。
においで体調不良に
★子ども・保護者の声
人工的な香りは洗剤、柔軟剤、香水、制汗剤、ハンドクリーム、整髪料、シャンプーなどに含まれますが、今回尋ねた子どもと保護者の多くが柔軟剤のにおいで悩んでいました。
「友達の服のにおいで頭が痛くなります」(木祖村・小5)
「席が近い子の服のにおいがきつくて、先生にお願いして席を離してもらいました」(松本市・小5)
「閉め切った教室にいたり遠足のバスに乗ったりした時に、いろんなにおいが混じって気持ち悪くなります」(安曇野市・小6)
「保育園のお昼寝布団に付いたにおいに悩まされています。布団を重ねて置いているためか、他の人の布団のにおいが子どもの布団に移って…。お迎えに行った時に、子どもの髪の毛からにおう時もありつらいです」(安曇野市・年長の母)
「教室のフックに上着や給食着をかけている間に、隣の子のにおいが移るようで洗っても取れません」(松本市・小1の母)
「お下がりの服を洗濯して部屋で干したら、そこに付いていた柔軟剤のにおいが取れないだけでなく、部屋中に広がって困りました」(安曇野市・小3の母)
「わが家は柔軟剤を使っていません。においの強いお下がりと一緒に洗った服を着たら、体がかゆくなって困りました」(松本市・小6の母)
一方で楽しむ人も…
香りに悩む人もいれば、「身だしなみの一環」「化粧やアクセサリーのように個性を出せる」と楽しんでいる人もいます。
「洋服やタオルがいい香りだと癒やされるし、やる気も出るので柔軟剤を使っています。友達と好きなメーカーや相性のいい洗剤との組み合わせを話すことも。香りが迷惑になるならその理由や、普通に売られている理由を知りたいです」(安曇野市・高2男子)
★行政などの取り組み
消費者庁など5省庁は昨年、連名の啓発ポスターを作成。文面がそれまでの「香りで困っている人がいるかも?」から、「困っている人もいます」と強い言い回しになりました。
安曇野市はこのポスターを市内の温泉・公共施設のトイレなどに掲示。また、「香料で体調を崩す人がいることを、まず知ってもらいたい」と、県から要請を受けて2018年、健康推進課や市教委などが独自に注意喚起のポスターを作り、市役所や支所、図書館など14カ所や小中学校に掲示しました。
健康推進課によると、ポスターへの反響や香りに関する声は今のところないが、化学物質過敏症についてはまれに相談があるといい、「体調不良の原因が特定できないため、受診を勧めるくらいしかできない。香りの問題はとても難しい」。
不要になった子ども服などを受け入れ希望者に無料でつなげる「リユースむすび隊」を運営する安曇野市社会福祉協議会は、「寄せられたお下がりの中には、においのきつい物もあるが問題になるほどではない」。
同市の図書館は「返却された本ににおいが移っている時は、しばらく天日干しをして飛ばしている。柔軟剤や食品のにおいもあるが、気になるケースの多くはたばこ」と言います。
【メモ】
国民生活センターによると、衣類をソフトに保ち静電防止の効果が高い柔軟仕上げ剤は、2000年代後半から香りの強い海外製品がブームとなったのをきっかけに、現在はさまざまな香りの商品が増えている。合成香料の多くは複数を組み合わせて調合しているが、日本石鹸洗剤工業会の品質表示自主基準では、含有率1%以下の香料の成分表示の義務はない。