「地元の晩酌の酒」大切に
蔵が「美寿々(みすず)酒造」(塩尻市洗馬)に生まれ変わった1955(昭和30)年に現社長の熊谷直二さん(68)は生まれた。“同い年”の会社を継ぎ、四半世紀前からは杜氏(とうじ)も兼ねる。大手には価格競争でかなわない今、「やっぱり違うと感じてもらえる酒にしなければ」と表情を引き締める。
蔵は標高750メートルにある。清浄な空気と湧き出る軟水を生かし、柔らかく、甘みのある酒を造ってきた。
創業から数えて4代目。東京農大を出てすぐ家業に入った。当初、酒造りは冬の朝に手伝う程度。主力は杜氏集団だったが、徐々に高齢化し人数も減少。99年、杜氏から「辞める」と告げられた。先代の父は数年前に亡くなっていた。「自分でやるか」と決断した。
「杜氏としてやることはやれたが、大変だった」。仕込みのサイクルを緩めて、造る量を減らした。最盛期に千石(約18万リットル)あった生産量は4分の1になった。機械化も進めたが、温度管理を自動でするタンクは導入せず、人の手で調整している。
小さな規模で手づくりー。事業を維持するためにやってきことが蔵の特徴になった。
この間、日本酒の飲まれ方や味は大きく変わった。純米系が増え、美寿々でも6割を占めるように。華やかな香りの吟醸酒もラインアップに加えた。ワインが飲まれるようになった影響で、酸味を生かした味わいも造れるようになった。
人の好みは時代で変わる。伝統の銘酒の味も「変わったと思われないように変える」と、微妙な工夫を重ねる。
一番大切したいのは、地元の晩酌の酒であること。「飲み飽きせず、もう一杯飲みたくなる。そういううまい酒を長く造りたい」
【沿革】
みすずしゅぞう 1893(明治26)年創業。当初は「清水醸造店」という社名で「富士の峯」という銘柄だった。太平洋戦争中の1943(昭和18)年、統制で日本酒造りをやめざるを得ず、ぶどう酒に転換。55(昭和30)年、同じ場所で松本平の他の2つの酒蔵と一緒になり日本酒造りを再開。名前は、信濃の枕ことば「みすずかる」から取り、縁起のいい「寿」の字を当てた。
【熊谷さんおすすめこの1本】
美寿々 純麻吟醸無濾過 生 美山錦(720ミリリットル1650円、1・8リットル3300円)
【相性のいいの料理】
刺し身など和食全般
【連絡先】
美寿々酒造℡0263・52・0013