
7月26日に開幕するパリ五輪は、塩尻市広丘吉田の「長野誠心館道場」にとっても特別な大会になる。柔道カナダ代表の出口クリスタさん(28)、ケリーさん(25)姉妹は、道場出身で初めての五輪選手。2人が小中学校時代に汗を流した畳では、今も大勢の子どもたちが鍛練を積んでいる。
“でたらめ”が育む統率力と礼節
「祝」。出口姉妹の五輪出場を喜ぶ張り紙があった。取材に訪れた11日夜、試合場ほどの広さの道場は、30人を超える子どもたちでいっぱいだった。
小学生と中学生に分かれ、一方が練習している間、他方は壁際で休んだりストレッチをしたり。時折、村山洸介館長(41)の声が響く。「3分で技を出し切る」「いけー、いききれ(攻めきれ)」
2人一組での稽古では、弾みで隣とぶつかりそうになる。すると、壁際の子どもが声をかけたり体を入れたりして接触を防ぐ。カオスな場に一定の秩序がある。
「うちのいいところは“でたらめ”なところ」と、村山館長は笑う。いつもはここに未就学児も加わるといい、総勢50人ほどに。「真剣にやって、けがなく終わることが大事」という。
異年齢が交じって交流するのも“でたらめ”なところ。その中で周りに気を配ることでリーダーの資質が育まれ、礼節を磨く。「そういうことが一生を支える。試合に勝つことは結果の一つ。五輪もそうだと思う」と村山館長。
誠心館は道場を開いて40年余り。かつて習ったという親世代が、子どもを通わせることが多いという。出口姉妹のように、きょうだいそろってというのも目立つ。
丘中1年の我妻優日南さん(13)は、姉も妹も誠心館。5年前、世界選手権初優勝の報告に来たクリスタさんに、金メダルを持たせてもらった。「テレビで見て思ったのより重くて光っていて、こういうの欲しいと思った」。その時から稽古に身を入れるようになったという。
妹で塩尻西小5年の日菜子さん(10)は4歳で入門。「気づいたらやっていた」といい、好きな技は優日南さんも得意な背負い投げだ。
2人とも目標に五輪がある。いつか自分もと思いながら、パリへ声援を送る。