南木曽の「ほていや」保庭さん夫婦 祖父母の民宿引き継ぎ歩む

自分も地域の人も喜ぶ活動を

南木曽町読書の柿其(かきぞれ)渓谷近く。小さな集落の一角に民宿「ほていや」がある。築180年ほどの建物で、土間やいろりが残り、黒光りした建具からも古き良き日本家屋の趣が伝わる。
聞こえてくる音楽に誘われ和室に入ると、レコードがずらり。プレーヤーやスピーカーなど音響設備もそろっている。古民家と融合しているような、ギャップがあるような…。
持ち主は保庭(ほてい)大志さん(32)。祖父母が約50年間、営んできた民宿を昨年4月に引き継ぎ、名古屋市出身の妻・優奈さん(32)と切り盛りする。以前は名古屋で音楽活動をしていたが、祖父母が高齢のため閉業しようとしていた民宿に戻った。
1日2組限定の宿にリニューアルし、音楽活動も継続。地域の課題とも向き合いながら歩む保庭さん夫婦を訪ねた。

「特別な場所」で外国人もてなし

庭先に置かれた「ほてい像」が目印の民宿「ほていや」は、保庭大志さんの祖父・実さん(89)と祖母・サミエさん(87)が1972(昭和47)年に創業。当初は学生民宿で、主にサミエさんが切り盛りしてきた。多い時は30人を受け入れた。
時代の流れで宿泊客は減り、周囲に十数軒あった民宿も、今では数軒になった。コロナ下での客数激減と自分たちの年齢を考え、実さん、サミエさんは閉業するつもりだった。
大志さんは小学6年生まで民宿で暮らし、その後は県外へ。10代後半から名古屋市でバンド活動を始め、その後DJやライブイベントの企画、運営などをしてきた。4年ほど前に優奈さんと出会った。
好きな音楽の仕事は充実していたが、営利ばかりが優先する大都市での暮らしに違和感を感じていた。「自然豊かで自給自足もできる南木曽は、自分にとって特別な場所」と改めて認識した。優奈さんと移住し、民宿を引き継いだ。
民宿はSNSのみで情報発信している。宿泊客はほぼ外国人だ。自家製野菜や野草中心の料理でもてなし、希望があればレコードをかけて語らう。
大志さんらの様子に実さん、サミエさんは「最初は心配だったが、外国人相手によくやっている。お客さんを大切に続けてほしい」。畑作業をしながら見守っている。

活性化取り組み イベントも企画

自分たちらしさを生かした取り組みも始めた。民宿が人と人をつなぐ場になれば─とこの春、「木曽文化交流会」と銘打ったイベントを初開催した。楽器演奏やDJのほか手相診断など得意分野を持ち寄り披露。約50人が参加し、「幅広い世代が楽しそうにしてくれた」と大志さん、優奈さんは振り返る。
今後も地域の子どもたち向けの催しや、アーティストとのコラボレーションなど、音楽やアートで交流できる場をつくっていく。
Uターンして1年余り。町内の課題も知るようになった。三留野宿(みどのじゅく)で空き家の多さに気が付いた。また、近所の木材工場で2年前から稼働する機械の騒音にも悩まされるように。
「騒音から逃れた拠点づくりと、三留野宿の保存・活性化に取り組みたい」と、6月に築100年以上の空き家1軒を購入し、リノベーションに着手。地域住民や観光客が立ち寄れたり泊まったりできる家を目指し改装中だ。
空き家を紹介した近所の松瀬茂敏さん(77)によると、2年ほど前から住む人がおらず、持ち主が解体しようとしていた。宿場町の中心地でもあるため、「家がなくなったら景観もなくなってしまうと心配だった」という。「元に戻して使いたいという人は今までいなかったので、大歓迎だし頼もしい」
大志さん、優奈さんは「自分たちがやりたいことに取り組みながら、結果的に地域や人の生きる喜びにつながれば最高です」としている。