駅前のにぎわい取り戻したい
「自分が30代の頃は、松本の駅前に人があふれていた。そのにぎわいを取り戻したい」。こう力を込めるのは、松本、長野市で居酒屋などを7店舗運営する酒楽(松本市中央1)の磯尾広志社長(53)だ。駅前でイベントを開催するなど、街全体の活性化の先頭に立つ。
「松本パルコが撤退し、井上本店も閉店する。駅前が空洞化しないかと、どきどきしている」
パルコや井上は昼の営業で、自身が経営する店舗は夜の営業が主体。一見、昼と夜の人出の多さは、影響し合わないように思えるが、「昼間、閑散としている街が、夜だけにぎわうことはない。その逆も同じ」と持論を展開。そのうえで「駅前に人が集まるような『動線』をつくらなければ」と強調する。
その具体策として昨春から、駅前の公園通りと、新伊勢町通りの一部を昼間、歩行者天国にして、マルシェや飲食店の屋台などが出店するイベントを開催。その旗振り役を担った。
今年は、月1回のペースで行った昨年の実績を検証しながら、開催時期などを厳選。5月に新伊勢町商興会などの協力を得てイベントを開催。9月には「信州の地酒」をテーマにしたイベントを開くほか、10月にも歩行者天国を行う予定という。
「とにかく人が集まれば、魅力ある店も出てくる」と話す。
一方、自身の店の状況は、コロナ禍が一段落し、客足は戻ってきたというが、それを受け入れる側の人手が不足。今年初めから、従業員の募集に力を入れた結果、「ここにきてようやく態勢が整った」という。
しかし、30、40人規模の宴会は激減したままで、「もうこうした宴会は、『やらなくていい』という風潮になるかもしれない」と懸念。「今年中に売り上げなど、全てをコロナ前と同じ状態に戻したい」と見据える。
最近は、そばや山賊焼きなど、松本名物の卸や小売りなどを行う、EC(電子商取引)サイトも開設した。
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高校卒業後、料理人の道へ。最初に働いた松本駅前の居酒屋で、料理人としての基礎をみっちりと仕込まれたと同時に「板前」としての自覚も生まれた。その後、数店の店で働き、27歳の時に独立した。
現在は、経営者としての業務が多忙で、自ら厨房(ちゅうぼう)に立つことはないが、「料理のクオリティーは落としたくない」。料理人としての誇りだ。
いそお・ひろし 1970年、松本市出身。梓川高校卒業後、料理人として松本駅前の店で働き始める。97年、独立して同駅前に居酒屋「酒楽」オープン。2008年、株式会社「酒楽」を設立し、社長就任。14年長野市進出。