読み聞かせの大切さを実感
オープンガーデンを併設し、温かな雰囲気に包まれた絵本書店「絵本の小部屋こごみ」(安曇野市穂高有明)は、開店1年余。古本の絵本や児童書を中心に、新刊や重版未定の本など3600冊ほどが並ぶ。店主の小谷田照代さん(65)が大学時代、読み聞かせのすごさを知り、「子どもと本をつなぐ大人になる」と決めた思いが、この場所に詰まっている。
教員経験生かしさまざまな活動
小学校教員として児童へ、母親として3人のわが子へ、毎日読み聞かせを続けた。2020年、定年後に静岡県から現在地へ移住。昨年6月に自宅の一角を改装して店を開いた。「夢がかなって良かったねと言われるけれど、絵本の店を開く夢はなかった」と笑う小谷田さん。子どもと本をつなぎ続ける。
幼い頃から本好きだった、兵庫県豊岡市生まれの小谷田照代さん。大学時代に「子どもの図書館」(石井桃子著、岩波新書)と「サンタクロースの部屋」(松岡享子著、こぐま社)を読み、大きな影響を受けたという。
そこには「子どもが本の世界に入って得る利益の一つは、心の中で楽しい世界を経験しながら大きくなっていけること」「小学5、6年ころまでは聞いて理解する能力と読んで理解する能力には差があり、それまでは大人がそばにいて読んであげることが大事」などの内容が書かれていた。
「小学校教員をやる限りは、子どもたちにずっと本を読んであげよう」と決意。こつこつと本を買い集め、卒業後は神戸市の小学校教員になり、担任する学級で毎日読み聞かせをした。結婚を機に静岡県に移り、定年まで勤務した。読み聞かせをすると「子どもたちが落ち着いてクラスがまとまる。保護者が喜ぶ。学力が上がる。いいことずくめ」と実感したという。
わが子にも夕飯の後と時間を決め、子どもが選んだ本を毎日読んだ。同じ本を何カ月も持ってきたり、後から興味を持ったりするため、本は手元にあった方がいい。本代はかかるが「子どもの塾代が毎月2万円」という知人の言葉に「その分を充てると思えば、わが子にも学校の子にもプラスになる」と考え、毎月数冊購入したという。
最後に勤務した小中一貫校では、専任司書教諭として学校全体の児童や生徒に授業を行い、共著「小学校明日からできる!読書活動アイデア事典」を出版。安曇野市へ移住後も、塩尻市立図書館が主催する「本の寺子屋」への登壇や、県内の学校で図書の特別授業やアドバイスをするなど、活動を続けている。
絵本の店は、夫がオープンガーデンに取り組み始め、「来た人にゆっくり本を読んでもらう場所を作ろう」と考えたのがきっかけ。「好きな本を手元に置いて自分の世界をつくってほしい」と、手頃な値段で買える古本の絵本や児童書を販売することにした。店名「こごみ」には「山菜として親しみがあり、飛躍の前に力をため込む子どもの姿に重なる。絵本や児童書は子どもたちの栄養になる」との思いを込めた。
オープンから1年がたち、孫へのプレゼントやわが子への読み聞かせ、学校図書館の蔵書など、まとまった冊数の選書依頼が増えてきた。そこで、依頼者や予算に合った本を選ぶ「一箱見立て」を始める予定。絵本の楽しさを伝えるミニワークショップや、「推しの絵本をもちよって」と題した読書会も計画中で「絵本を真ん中に置いた活動をしたい」と話している。
8月は9~18日(11、14日休業)の8日間のみ営業。期間中はイス×アート作家イトウリエさんの個展「青と庭」を開く。基本的な営業は4~11月の土・日曜と祝日の午前11時~午後5時。臨時休業や臨時オープンもあり。詳細はホームページ、インスタグラムから。