標高1200メートル、松本平を一望する山形村・清水高原にある村指定文化財の慈眼山清水寺。静寂の中に荘厳な雰囲気が漂うこの寺の魅力を知ってほしいと、4月から管理人を務める岡上(おかうえ)洋さん(41)、真梨さん(43)夫妻が奮闘している。
寺の創建は729(天平(てんぴょう)元)年。京都清水寺と縁があるとされ、檀家(だんか)はないが村民を会員とした保存会を組織して維持管理をしている。管理人はその委託を受け、境内の掃除や参拝客の案内、鐘突きなどをする。
岡上さん夫妻はそれ以外にも「できることを」と、遊歩道の手入れをしたり、境内の様子やイベント情報をSNSで発信したりする。「寺の魅力を知り、清水高原へもたくさんの人が訪れてほしい」と願っている。
自然と調和図り寺の歴史守る
1級造園技能士で、自然との調和を考える樹木管理の専門士「アーボリスト」の岡上洋さんと家族は、2015年から7年間、山形村に居住。洋さんが仕事でツリークライミングの技術を使い高い木に登る「特殊伐採」を行うことなどから、木が生い茂る清水高原の土地を「練習用に」と購入した。伐採木を使って子どもたちがアスレチックのように遊べる「森の公園」を整備するなど、当時からなじみのある土地。同寺の雰囲気も好きで、たびたび訪れていた。
23年に洋さんがオーストラリアの樹木管理会社に就職し、息子の八起(やおき)さん(8)、起生(きなり)ちゃん(6)も一緒に家族で移住。固有植物の景観管理などを学びながら、チームリーダーとして1年間実績を積んだ。帰国が決まり、再び山形村で暮らしたいと考えていた時に紹介されたのが、同寺管理人の仕事だった。
着任後は、木を剪定(せんてい)し枯れ枝をはらい、境内に光が差すように作業を進めつつ、周辺も少しずつ整備した。シダレザクラの開花状況などの問い合わせが多かったことから、インスタグラムを開設。山野草の開花状況や野生動物、幻想的な早朝の雲海や夕暮れなどを写真に収め、ほぼ毎日更新している。
仁王門と駐車場の前にあった展望台が取り壊されたため、ベンチを設置。景色を見ながらゆっくり休憩できるようにした。境内には、文化交流施設「あららぎの庄」があるが、これまで活用が少なかった。そこで、刷新した御朱印やお札、絵馬等の授与品を、入り口で紹介。周辺遊歩道の地図を置くなどして、参拝だけでなく周りの景色も楽しんでもらおうと工夫した。
椅子やテーブルの位置を変えたり本棚を置いたりしたところ、最近はゆっくり座って本を読んでいく参拝客の姿も見られるようになった。口コミの効果か、訪れる人は少しずつ増えている。意見や要望を聞いてさらに良くしていきたいと、目安箱も設置した。
洋さんらしさが出ているのは、境内で枯れたまま立っていた桜の木への対応だ。ただ切り倒すのではなく、オーストラリアで学んできた「コロネットカット」という手法を施した。伐採した切断面に切り込みを入れると、微生物や虫が集まってうろができる。そこを巣穴にする野鳥が集まる。長い年月をかけ、持続可能な野生動物保護につながっていく。
自然との調和を図りながら、寺を守ろうとしている岡上さん夫妻。「村の人たちがよりどころとして大切に守ってきた場所。これだけ自然が残るこの寺の魅力を、多くの人に知ってほしい」という。環境を壊さないためにも「過熱せず、ここを好きな人が少しずつ増えてくれれば」と願っている。インスタグラムはこちらから。