日本一高い所を走る遊覧船 黒部湖「ガルベ」11月10日ラストラン

紅葉する山々とガルベ。「ガルベ」は黒部の語源ともいわれるアイヌ語に由来(2020年10月、柏原清さん撮影)

大町市と富山県を結ぶ山岳観光ルート「立山黒部アルペンルート」の黒部湖を航行する「遊覧船ガルベ」は、乗船客数の減少や船体の老朽化などから11月10日で運航を終える。満水時の湖面の標高は1448メートル。日本一高い所を走る遊覧船が、初代の「黒部丸」から通算して55年の歴史に幕を下ろす。
甲高い汽笛が黒部峡谷に響き、白い船体がエメラルドグリーンの湖面を上流へ進む。北アルプス立山連峰や後立山連峰、上流側から黒部ダムの堤体を眺められる約30分のクルーズ。頬に感じる風は、酷暑を忘れる涼しさと爽やかさだ。紅葉シーズンの景色も人気という。
ラストランまで2カ月余。乗船客や運航関係者らのたくさんの思いは湖面を渡る風に乗り、ガルベと共に最後の日まで走り続ける。

湖上の景色 目に焼き付けて

黒部湖遊覧船は、関電アメニックス(本社・大阪市)が運航。黒部ダム(富山県)の建設でできた人造の黒部湖で、ダムが完成した6年後の1969(昭和44)年から運航が始まった。初代「黒部丸」は2階建てで最大140人が乗船でき、全長16メートル、重さ18.5トン。9ノットで走り、約40分で湖を1周した。2000年からは現在の「ガルベ」(1階のみ、乗船定員80人、全長16メートル、重さ11トン、13.5ノット)にバトンタッチし、毎日定期便8便を運航する。
「海なし県にいて、船長に憧れがあった」。遠藤久雄さん(76、大町市)は就航時から1989年までの20年間、志願して操船業務に従事した。表面積が広い2階建ての船体は風の影響を受けやすく、流木との接触を回避したり、シーズン終盤は雪で視界が悪い中の操船に苦労したり。安全第一の精神で日々舵輪(だりん)を握った。
一方で、航行中に熊が“熊かき”で湖を泳いで渡る場面に遭遇したことや、「黒部丸のエンジン音は大きく、針ノ木岳の頂上に登った時にもかすかに聞こえた」など、いろいろな思い出があるという遠藤さん。ラストランが迫る心境を尋ねると「私の青春は黒部丸と一緒にありましたからね…」と目頭を押さえた。かつて船長だった遠藤さんのお薦めは、風のない静かな朝の時間帯で、「秋には湖上からの紅葉を楽しんで」。
現船長(3人)で運航管理者の大蔵春美さん(59)も「朝の便は条件が整えば、赤牛岳などが水面に映り美しい。湖から見る山々やこの角度からの堰堤(えんてい)は、今年で見納め。しっかり目に焼き付けてほしい」と話す。

ダムカレーには残るガルベの姿

ラストイヤーの今年、黒部ダム建設に携わった亡き家族の写真と乗船する人など、連日多くの乗船客が訪れる。7月末に群馬県高崎市から訪れた50代の夫婦は、最終年とは知らずに初乗船。「船上から見る長野県側と富山県側の木の種類や景色の違いを見比べ楽しんだ。廃止は残念だが、紅葉の時季にまた訪れたい」と語った。
最終年を記念したTシャツやステッカーなどのグッズや弁当、ガルベをイメージした飲食物も登場し、売れ行きは好調。ラストランは11月10日の午後3時40分出航便。その後の船体は解体予定という。

運航終了を受け、あることを心配するカレー好きもいるだろう。大町市のご当地グルメに定着し、市内外の店で提供される「黒部ダムカレー」。同カレー推進協議会が定めた五つの“おきて”の一つが、「ルーの上にガルベに見立てたトッピングをのせるべし」だ。黒部湖から遊覧船が姿を消すと、カレーからも消えるのか。
協議会長で同社くろよん観光事業部課長の柏原清さんは「このおきては残そうと考えている」と回答。人々の記憶と、黒部ダムカレーの中で末永く走り続けていく。
ガルベの乗船料金は1200円、小学生600円。担当部署TEL080・1140・5641(午前9時~午後4時)