王滝村の御嶽山3合目にあり、古くは精進潔斎(肉食を絶つなど身を清めること)しないと登れなかった山中で、心身を浄化する「滝行」の場として知られる清滝。今夏も御嶽山を信仰する人々や、心のよりどころにしている家族らが県内外から訪れている。激しい水流に打たれる滝行の様子を、参加者の許可を得て撮影した。
激しい水流に耐え心身を浄化…心の平穏に
【小池会の滝行】
8月4日午前8時半、滋賀県東近江市から御嶽信仰の団体「小池会」の28人が清滝を訪れた。白装束姿の9~85歳の一行はまず、滝の脇の清滝不動尊に参拝。代表の伊藤芳江さん(78)が天と地を結んで邪気を払う祝詞を唱え、滝の前に進んで塩とお神酒をまいて清め、「滝をお借りいたします」と指で十、大、中、小の4文字を滝に向かって書く(九字(くじ)を切る)。張られた結界の中で、代表者8人による四方礼拝、滝に神を呼ぶ「降神の儀」と続いた。
伊藤さんと世話人2人が一行の一人一人に九字を切り、参加者は次々と滝の中へ。高さ約30メートル、この日の水温17・1度の滝に打たれながら一心に祈り、自身の心と向かい合った。
滝行は4回目という野村晴香さん(30、大阪府吹田市)は「最初は水への恐怖感に圧倒されたが、今では心地よく素直な気持ちに。神様のありがたさを感じながら打たれた」と言う。30年以上続ける家田やよいさん(75、愛知県南知多町)は「お滝に入ると、ほっとして落ち着きを取り戻す。体が次第に軽くなり、爽やかな大きな心が広がる」。
御嶽山を崇拝する「小池会」の清滝での滝行は、伊藤さんの母・小池リサさんが代表の時に始まり、75年ほど続いている。
【滝行を照らす光】
一行の滝行が始まった瞬間、針葉樹の大木がうっそうと茂る林間を縫って、太陽光のスポットライトが差し込んだ。滝に張られた結界の中だけが明るく照らされ、浮かび上がる。清滝での滝行を半世紀撮り続ける記者が、初めて出合った光線だ。レンブラントライティング(斜光線)の、ドラマのワンシーンを連想させる神秘的な情景が現れた。
結界の中を照らす光は、一行の滝行が終わったのに合わせるかのように消え、周辺に咲くタマアジサイの花が、滝から吹く風を受けて静かに揺れた。
自然と一体雑念消える
滝行50年愛知の矢田さん一家
11日午前11時半過ぎに清滝を訪れたのは、愛知県あま市の矢田武男さん(81)の一家7人。清滝不動尊に参拝後、孫の愛菜さん(17)ら5人が次々と滝の中へ。
ザーザーと激しい水流の中でひたすら耐え、祈る。極度の緊張感の中で、余計なことを考える余裕はなく、大自然との一体感の中で無の境地を味わう。厳しい滝行を終えた一家は「今まであった、もやもやとした雑念が一切消え、とても気持ちがすっきりし、心が静寂になりました」。
矢田さんの家は御嶽山を信仰。先祖が立てた霊神碑もあり、一家の清滝での滝行は50年になるという。
(丸山祥司)