100年後も使える丈夫なものを
朝日村西洗馬の木工作家、金子裕一さん(39)の初個展「土に還(かえ)る」が9月14~16日、同村針尾のギャラリー「BLUE HOUSE STUDIO」で開かれる。のみの彫り跡を残した我谷(わがた)盆や箸、麹蓋(こうじぶた)など、天然の木で作った暮らしの道具を展示する。「自然の素材だけで、罪悪感なく土に返せるものを作りたい」という金子さんの自宅工房を訪ねた。
群馬県出身の金子さんは子どもの頃から、古いたんすや農作業の道具などに興味があった。「機械もない時代に、手で作っていてすごいと思った」。ルアーを自作するほどの釣り好きが高じて、北海道大水産学部に進学したが、休学中の旅で出合った沖縄の伝統楽器三線(さんしん)をもっと知りたいと、琉球大へ編入。古典の琉球文学を学びながら、サークルで伝統芸能にどっぷり漬かった。学生の頃から、沖縄民謡に欠かせない竹笛を独学で作り始め、今も注文が入るという。
卒業後、八重山諸島の西表島で暮らす中で、地元の人から豊かな自然の素材を使った紙すきや籠など、昔ながらのもの作りを教わった。「暮らしや祭事に必要なものは、何でも自分たちで作る姿に刺激を受けた」
さまざまなもの作りをするうちに木工への思いが募り、沖縄を離れて上松町の県上松技術専門校に入学。基礎を学んだ。縁あって2年前に朝日村へ移住し、制作をする。「木工は奥が深い。接着剤を使わず、木を組み合わせるだけで作られた江戸時代の木箱が、今でも丈夫で使える。先人の技術に到底及ばない」と感嘆する。
「時間はかかっても、100年後に古道具屋で売られているような長持ちするものを作りたい」。古材を使うことも多く、手作業で製材していた頃の大(お)鋸(が)(大きなのこぎり)の跡に感動するという。
塗料として使う柿渋やベンガラを自分で作り、刃を研ぐ砥石(といし)を河原で採取する。「暮らしの道具を素材から作る営みが好き。今後は砂鉄から集めて鍛冶屋になるかもしれない。やりたいことは一生では足りない」と笑う。金子さんのもの作りへの興味は尽きない。
【金子裕一個展土に還る】9月14~16日、朝日村針尾のBLUE HOUSE STUDIO(青い屋根が目印)。スツール、姿見、スピーカーなども展示。100年以上のケヤキの古材で作る展示台は見もの。小作品は販売する。期間中、金子さんは在廊。午前11時~午後5時。入場無料。