仏画を習い13年目 一日だけの展示会 千葉勢子さん 9月29日豊科公民館で

描くことが生きる糧に

気が向いた時に、筆を持ち和紙に向かう。一日に1時間ほど。描いている間は「無」の境地になる。「至福の時」だという。
安曇野市穂高の千葉勢子さん(77)。空海(弘法大師)、大日如来などの「仏画」を描いて13年目になった。
多彩な趣味を持つ。書道は師範の資格を得た。郷土文芸誌「安曇野文芸」の運営に携わる。陶芸、手まり作り…。そして今、仏画に打ち込む。それに伴う全国各地の寺院を巡る旅も楽しみだ。「仏画が人生を豊かにしてくれた」と話す。
同市豊科公民館で9月29日、一日だけの仏画展を開く。民俗・日本思想史家の田中欣一さん(95、白馬村)が主宰する講座「閑吟塾」に参加する縁でこの日、田中さんらが行う催しに合わせ、企画した。

楽しみの一つ寺院巡礼の旅

千葉勢子さんが仏画を始めたのは2012年5月。元々、仏像や仏の絵などを見るのが好きだった。旧NHK文化センター松本教室(松本市)で書道教室に参加していた時、「仏画」講座の開講を知って「すぐに飛びつき」、1期生の一人になった。
郷福寺(塩尻市広丘郷原)の白馬義文名誉住職が講師。月2回の「写仏」を学んだ。松本教室が今年3月で閉じた後は、郷福寺まで通う。
写仏は仏の下絵に和紙を重ね、鉛筆で写した後、日本画絵の具の顔彩を使い色を付けていく。講師が作った見本はあるが、実際にどんな色で描くかは自身の感性による。色の選び方で、絵の印象は大きく変わる。
「一色を出すのに、30回ほど塗り重ねることもある」。ただ、和紙に描くため、べたべた塗ると紙がよれてしまう。ゆっくりと丁寧に描くことが大切だと教えられている。
仏画の講座には、描くだけではない楽しみもある。寺院巡礼の旅。自身が描いた仏画を持参し、訪問した寺から御朱印をいただいてくる。
真言宗を開いた空海の肖像画を描いた後、講師の白馬さんらとともに、香川、京都、奈良などにある真言宗18本山を巡った。空海を各寺院の御朱印で囲んだ掛け軸が出来上がった。完成は18年5月だった。
昨年秋には、郷福寺が主催する真言密教の聖地・高野山参拝の旅に、仏画講座の仲間4人も加えてもらった。2年前、夫の政廣さん=当時(75)=が、がんでなくなった。50年連れ添った夫との別れ。コロナ禍で付き添いも十分にできず自責の念や喪失感にさいなまれた。そんな時期、「高野山に行って救われた思いだった」と述懐する。

安曇野文芸に「思い」を投稿

千葉さんは、「安曇野文芸」に2000年3月の創刊当初から参加。現在も運営委員を務める。同誌への投稿に、各地の寺への巡礼の様子やその時の思いが表現されている。今年5月発行の49号には「高野山喪の旅」の題で昨年秋の旅のエッセーを投稿。自身の体調が優れない中で無事旅を終えたとしながら、末尾で政廣さんに触れ「面影は日毎に私の心に優しく寄り添い、『かあちゃん』と、笑顔のままだ」とつづった。
「描くことが生きることにつながる。巡礼などを通して人と人との絆、良い縁に恵まれている。これからも、健康で描き続けたい」
いまや、千葉さんの生きる糧になっている仏画。仕上げる作品は1年に2点ほど。これまでに掛け軸11点、額装7点、小品7点を完成させた。豊科公民館ロビーで29日に開く個展で披露する。