液体中に広がるミクロの世界ー顕微鏡写真制作・北山さんが山梨のワイナリーに作品寄贈

作り手にささげる“液体の瞬間”

安曇野市穂高有明の個人美術館、安曇野ビンサンチ美術館館長で、長年、液体の顕微鏡写真制作をライフワークにしている北山敏さん(75)は、マンズワイン勝沼ワイナリー(山梨県甲州市)に、ワインの顕微鏡写真7点を寄贈した。
「ミクロデザインアーティスト」と自称し、これまでワインのほかコーヒーやしょうゆなど、身近な液体の顕微鏡写真を制作。ミクロの世界から広大な宇宙を連想させる独自の世界を築いてきた。
作品にする液体の、製造現場に作品が飾られるのは初めて。さらにしょうゆを主とする調味料メーカー、キッコーマン(本社・千葉県)のブランドサイトで、しょうゆの作品が紹介されるなど、被写体の“生まれ故郷”に「北山ワールド」が広がる。「長年の願いがかなった」と感慨に浸っている。

変化するワイン楽しめる別視点

1962年創業のマンズワインの勝沼ワイナリー。その地下にある、かつては「ワインの製造エリアだった」という薄暗い空間。木製の熟成だるが積まれるなど、歴史と趣が感じられる場所だ。ワイナリーツアーなどで見学できる。
北山さんのワインの顕微鏡写真7点は、この空間の壁面に、実際に被写体となったワインボトルと一緒に飾られた。最も大きな作品は「SOLARIS(ソラリス) 山梨甲州2020」という白ワインが被写体で、縦約1・5メートル、横約3メートル。宇宙空間を思わせる深みのある黒を背景に、下部に紫や黄色のもやのようなものが細長く漂い、その上を金色に輝く正体不明の物体が飛んでいるようだ。
その隣に飾られている縦約1・5メートル、横約1メートルの作品は「甲州gerbera(ガーベラ) 2023」というオレンジワインが被写体。ワインの色を連想させるように、オレンジ、黄、ピンクの花びらが積み重なり、一輪の花のようになった作品に仕上がっている。
同社の島崎大社長は「『不思議な世界』が、作品の第一印象」とし、「ワインの瞬間を捉えている。味も瞬間、瞬間で変化し、ワインを『味わう』違う切り口として、ワイン好きの興味を引くのでは」と評価した。

肉眼で見えない世界を伝えたい

北山さんの作品は、偏光顕微鏡を使用。液体を一滴、プレパラートに落とし、独自の方法で結晶化。その過程を数百倍から5千倍ほどに拡大する。屈折した光が入るとさまざまな色やデザインが現れ、その瞬間を写真に収める。
昨秋、島崎社長のワイン造りを追究してきたこれまでや、日本ワインの将来に懸ける思いなどを特集した新聞記事を読んだ北山さん。「この人に会わなきゃ駄目だ」と思った。
まず、同社の小諸ワイナリー(小諸市)を訪ね、赤ワインを購入。顕微鏡でのぞくと、「すごい世界が見えた」。うれしさのあまり同社に連絡し、島崎社長と面会したい思いを伝えた。
「最初に電話を受けた社員も、何のことか分からなかったと思う」と、苦笑いの島崎社長。それでも北山さんの熱い思いが伝わり、今春からの作品展示につながった。その後、小諸ワイナリーにも作品を寄贈した。
また、北山さんの作品集を見た同社社員が、その中に掲載されているしょうゆの作品に興味を引かれ、同社の親会社、キッコーマンに「しょうゆにすごい世界がある」と紹介。それをきっかけに「亀甲萬本店ブランドサイト」内に掲載されることになった。
北山さんは「個展などを開いて、多くの人に作品を見てもらうのもうれしいが、ワインやしょうゆなどを造った人たちに、こういう世界があることを知ってほしかった」と笑顔を見せた。