豊かな暮らしのヒントに―音楽制作会社が頑張る高齢者など紹介する冊子発行

独り暮らしでさみしい、交流の場がないといった悩みを抱える人を元気にする。手芸や工芸などの作品発表の場を提供し、やりがいにつなげるー。そんな目的で昨年10月、冊子(ZIN)「えんがわ 和話笑(わわわ!)」が発行された。
手がけるのは、音楽制作会社ARTWINGLABEL(アートウィングレーベル)(辻敬代表)。2018年から、配食サービス事業に進出、高齢者の声を直接聞き、生まれた取り組みという。
高齢者や介護者にインタビューし、文章と写真で手芸・工芸作品に取り組んだきっかけを伝えたり、介護の現場の声を盛り込んだり。QRコードを読み込めば、音楽を聞けるといったアイデアも。冊子の副題は「『縁をつむぐ』高齢者の夢&介護者の声」だ。

毎日笑顔でいられる手引き書に

6日、松本市梓川梓の上兼力三さん(79)宅。ARTWINGLABEL(同市笹賀)の辻敬代表(60)が訪れ、インタビューしていた。10月発行予定の冊子「えんがわ和話笑」第2号に向けての取材で、今回は上兼さんの木彫りにスポットを当てた。
始めたきっかけ、長く続く秘ひ訣けつ、最近の作品などについて聞く。終始和やかな雰囲気で、時々笑い声も起こる。同行した中田あきらさんは、インタビューや上兼さんが作品を作る様子、作品そのものなどの写真を撮影した。
音楽制作会社ARTWINGLABELが、高齢者向けの配食サービスを手がけるようになったきっかけは、音楽業界の低迷だ。同レーベルにはギターの辻さん、ボーカルのTamiko(本名・下田民子)さん(62)のユニット「雅音人(がねっと)」が所属する。最近は、配信が一般的になり、CDの売り上げが伸びない、コンサートを開いても赤字─など、厳しい状況といい、別の道を模索した結果という。
雅音人が環境活動をベースにしていたこともあり、「今後、ますます高齢化が進む。音楽と配食を一つにすれば何かできるのではないか」といった思いもあった。
同社が手がける高齢者をターゲットにした配食サービス「ライフデリ松本店」(同市県1)は、普通食、カロリー調整食、透析食などの他、個別にアレルギーや好き嫌いにも対応。1日300食を配る。弁当を届けるだけでなく、高齢者の様子を見たり、食べ残しに気をつけたりするなど、見守りも大事な仕事だ。
弁当を配達する中、高齢者の横のつながりが少ない、せっかく作った作品を見てもらう場がない|といった状況を知った。「1人暮らしのお年寄りは、思うように行動できないことも。作品を紙面で見られれば、楽しみも共有できる。高齢者配食の認知度も上がる」と冊子を作ることに。信州アーツカウンシル(一般財団法人県文化振興事業団)の支援を受け実現した。
A4判16ページ(試作した0号は8ページ)。アクリルたわし、昆虫研究、短歌、折り紙など、高齢者の作品が笑顔やイラストと一緒に盛り込まれている。「介護事業を支えるシニアの手」「介護事業の現場から」などのコーナーもある。「聴きたい歌、歌いたい曲」のページでは、「SmileSmile」など雅音人の曲の歌詞と共にQRコードを掲載。スマートフォンで読み込むと曲が流れる。音楽でもエールを送ろうという、音楽制作会社ならではのアイデアだ。
手に取った人は「楽しい」など笑顔に。「掲載された人に会いたい」といった声が出たり、「こんな特技を持っている人がいる」と紹介されたり。辻さんは「今日1日、希望を持って生きて。一日一日がつながれば毎日になる。冊子が高齢者の生きがいや楽しみを見つけるヒントになれば。多くの人が笑顔になるようなことを紹介していきたい」。
「袖すり合うも多生の縁」。「えんがわ和話笑」が大きな袖になることを期待する。辻さんTEL080・8018・1013