歴史の道 100年先のために 島々ー徳本峠を補修・清掃「1095登山道整備隊」

次を担える人たちを育てたい

松本市安曇の島々地区から、徳本(とくごう)峠を経て上高地まで続く約20キロの登山道「島々明神線」。江戸時代に林業の道として使われ、後には日本アルプスを世界に紹介した英国人ウォルター・ウェストンらが歩いたクラシックルートとして、登山者を魅了してきた。近年の群発地震や大雨で道が崩れるなどして、島々宿登山口から徳本峠間が通行止めになっていたが、9月、4年ぶりに開通した。
登山道の補修や清掃などを行ってきた有志団体の一つに、「1095(トクゴー)登山道整備隊」がある。昨年隊を立ち上げた代表の山口ひろきさん(56)は「まだまだ手入れは足りていない」。この道を100年先につなげていくために、できることは何か─。整備隊の活動は始まったばかりだ。

職業年齢幅広く県内外から集う

「1095(トクゴー)登山道整備隊」代表の山口ひろきさんは、山好きが高じて2021年から、島々地区にある古い蔵を改装して「アルパインカフェ満寿屋(ますや)」を営む。店は山好きが集まる場となり、中部山岳国立公園の魅力発信や環境保全などに協力するパートナーシップを、環境省と結んだ。
登山道閉鎖が続く間、何かできることはないかと客からの問い合わせもあり、「マンパワーの受け皿をつくりたい」と昨年3月、整備隊を結成した。SNSでボランティア隊員を募ったところ、県内外の約30人が手を挙げた。町工場の経営者やリフォームの自営業者、ウェブデザイナーなど職業はさまざま。年齢は20代から70代までと幅広い。
登山道の大規模な補修工事は県などが担う。また、10年以上前から整備活動をしている有志の団体「古道徳本峠道を守る人々」は技術的な作業が得意で、山口さんも即戦力として参加していた。一方、整備隊は「一般の人でもできる、小回りの利く“露払い”的な役割ができれば」という。
整備隊としてまず巡視をして作業計画を立て、県などの会合で事前に許可を得て作業に入る。隊員10人前後の現地での作業を、巡視を含めこれまで11回行った。応急処置として橋の床板を補強したり、斜面に手すり代わりのロープを設置したり。床板が腐らないようたまった落ち葉を払ったり、鋭利な石を取り除いたり─と作業に終わりはない。

交流深めながら安全と技術向上

徳本峠の登山道は距離が長く、現場まで歩くため、帰りの時間を含めると長時間の作業ができないのが難点といい、許可を得てテント泊をする日もあるが、「直り方がゆっくりなので、いたちごっこになる」。支給される材木を除き、ロープやねじ、無線機など全ての資材と道具は、自前か整備隊への募金で賄うため、「予想以上にお金が出ていく」。隊員でオリジナルシールを手作りし、資金集めもする。
隊員同士のコミュニケーションは事故防止につながるため、暑気払いなどレクリエーションを大事にしている。「楽しくないと続かないし、ばか話の中からアイデアが生まれることもある」。技術や知識を伝え、次を担える人たちを育てたいと、山口さんは先を見据える。
「徳本峠には『山の源流』的な魅力がある。高齢化する島々の集落が、山好きが集まることで少しでもにぎやかになればとも思う」

9月28日に松本市中央2の信毎メディアガーデンで、整備隊メンバーらによるトークショーを開く。「関心がある若い人たちを増やしたい」

【トークショー「徳本峠の登山道整備と山仕事のウラ話」】
9月28日午後2時、信毎メディアガーデン1階ホール。話し手は山口さん、山の測量や歩荷(ぼっか)などを請け負う「株式会社山屋」(松本市)のスタッフ長谷川悟さん、山小屋で働く人のためのシェアハウス「小屋番の小屋」を同市島々地区で始めた塩湯涼さんの3人。入場無料。参加申し込みは専用フォーム=こちら=から。アルパインカフェ満寿屋TEL0263・87・8216