【醸し人】#18 大雪渓酒造 杜氏・長瀬護さん

昔の味も新しさも大事

北アルプスの麓、創業126年を迎えた大雪渓酒造(池田町会染)で杜氏(とうじ)を務める長瀬護さん(49)。先代の故薄井敦行社長が残した「味を決めるのは造り手ではなくて顧客」という言葉を胸に、酒造りと向き合う。
職人たるもの言われたことを100%以上の仕事にして返す」と自負する長瀬さん。芸術家は自分の表現を周りに評価してもらうが、杜氏は周りの要望をいかに形にできるかが勝負という。昔の味を大切にしながら、微発泡酒を醸すなど、新しいことにもチャレンジする。
最近は、ワインを飲む人が増えたため、日本酒にも酸味を求める傾向が。「20年ほど前までは、酸味をいかに抑えるかが技術力だった。今は酸味を利かせて、味の幅とボリュームを出している」と、変化を説明する。
王滝村出身。元々、しょうゆやみそなど、発酵食品に興味があっり、京都府の専門学校で微生物について学んだ。そこで同級生だった滋賀県の酒蔵の息子から影響を受け「面白そう」と、卒業後、酒造りの道を志し県内の酒蔵に就職。その後大雪渓酒造に入った。
2010年、杜氏になった。「歴史が長い酒蔵。ブランドイメージがある」。この思いから「それを壊してはいけない、味を変えてはいけないというプレッシャーが強かった」と、当時を振り返る。
科学的理論に基づいた造り方をしたり、酒蔵が互いに情報共有したりするのが時流。その結果「日本酒のレベルが上がり、バリエーションも増えた」。
一方、競争は激化。「蔵人、営業など、みんなの努力があって成り立つ。感謝の気持ちを忘れずいい仕事がしたい」。数日後には、いよいよ今季の酒造りが始まる。

【沿革】
だいせっけいしゅぞう 1898年、「池田醸造合資会社」の社名で創業。「桔梗正宗」「晴光桜」の銘柄を造った。戦後の1949年、銘柄を「大雪渓」に改名。日本三大雪渓の一つが白馬岳にあることから、その絶景にちなんで名付けた。53年には全国新酒鑑評会で最優秀賞を受賞。当時の皇室献上酒にも選ばれた。

【長瀬さんおすすめこの1本】
大雪渓 純米吟醸 (1・8㍑3740円、720㍉㍑1870円、300㍉㍑748円)

【相性のいい料理】
ナスの煮浸し、サバの竜田揚げ

【連絡先】
大雪渓酒造TEL0261・62・3125