「年寄りでも若くてもいい。仲間をつくっておしゃべりしたい人、楽しみたい人は、ここに来てほしい」。安曇野市穂高の太田昌子さん(73)は、誰もが気軽に立ち寄れる居場所「ぽちのいえ」を、松本市のかつての繁華街、裏町にある「はしご横町」(大手4)に開いた。長年、「人の世話」をする仕事に携わってきた太田さんの「集大成の場所」という。
カラオケや漫画ゲームや占いも「ぽちのいえ」の外観
「ぽちのいえ」は、飲食店が集積する同横町の一角にある。外観は白く塗られ、室内は6畳1間。太田さんが手作りした天使やアニメキャラクターなどの切り抜きを飾って楽しく明るい雰囲気に。テレビを設置し、カラオケができるようにし、漫画や絵本なども置いた。
こうした空間で、訪れた人たちがおしゃべりを楽しんだり、太田さんが人生相談にのったりする。カラオケやトランプなどのゲームのほか、ダンスや瞑想(めいそう)もするという。また、有料で太田さんの占い(60分2千円)もある。
料金は、基本的に注文した飲み物に対する「お気持ち代」。「もうけようとは思っていない」と割り切っている。
白馬村出身。幼い頃から、情に厚く、捨て猫などを見つけると「拾ってきた」。人間に対しても「すぐに情が移ってしまった」。岐阜県の短大に通っていた頃、実家に帰省するため、夜行列車に乗った。ほとんど乗客がいない中、うつむいたままの女性が目に入った。この時点で居ても立ってもいられなくなった太田さんは女性に声をかけた。「大丈夫ですか」と。
二人は打ち解け、そのまま、太田さんの実家に行くことに。年上と思われたその女性は、数日、太田さんの実家に泊まった。そして「自殺を思いとどまれた」ようなことだけを言い残し、姿を消した。
太田さんはその後、保育士になって保育園などに勤め、自身で託児所の経営もしたほか、結婚相談を受ける仕事もした。
そんな時、夜行列車で出会った女性が結婚相談のため、太田さんの目の前に偶然、現れた。二人とも、ハッとした表情を見せ、10年以上も前の「あの時のこと」を思い出した。女性は何も言わず引き返してしまった。
太田さんはこの出来事を振り返り、「その女性が私にとった態度は失礼かもしれないが、私は『こういう人もいる』と、勉強させてもらっている。この時のことに限らず、常にそう思っています」。根っからの人好きで、世話好きなのだ。
現在、子どもの学習支援の仕事をしている太田さん。当面は「ぽちのいえ」の運営資金は持ち出しになりそうだが、それは気にしていない。
「こうした場所をつくるのは私にしかできないこと。独りぼっちやさみしい人のために何かすることは使命だから」。とことんやるつもりでいる。