絵の腕自慢集い褒め・高め合う 松本国際高マンガ・イラスト専攻
松本国際高校(松本市村井町南3)のマンガ・イラスト専攻で学ぶ生徒が、今月発表の新人マンガ賞「新世代サンデー賞」(小学館)で奨励賞に選ばれた。同専攻の現役生が大手出版社の賞を受けるのは初めてという。
受賞したのは2年のペンネーム伊予柑(いよかん)さん(16、松本市)。初めての応募で描いたギャグマンガの絵は「めちゃくちゃ色気が出てきそう」と講評された。
もともと絵は得意だが、マンガ家は目指していなかった。それが同専攻でプロにみっちり指導されるうちに変わったという。
環境も影響した。マンガを専門的に学べる高校は全国的にも珍しい。絵の腕自慢が集まり、「褒め合う、高め合う」と伊予柑さん。大手誌の編集者の目に留まる生徒も増えている。
同じ思いの仲間自分らしさ出し
2年のペンネーム谷知衛(ちひろ)さん(伊那市)は昨年度、「マガジン新人漫画大賞」(講談社)の最終選考に残った。入選は逃したが、賞金3万円をもらった。「描きたい作品がある」とプロを目指す気持ちを固めた。
マンガ家に憧れたのは中学の時だが、同じ思いの人は周りにいなかった。松本国際高校にマンガ・イラスト専攻があることは、美術教員に教えられた。「同世代にいろんなことを聞ける。僕にぴったりだった」。朝6時半起きの通学も苦にならない。
5時半起きの生徒もいる。駒ケ根市の1年男子はマンガを学べる高校をインターネットで探し、この専攻を見つけた。「中学の時は独りで描いていた。ここではみんなで描いて共有できる。今まで以上に自分らしさが出せている」とほほ笑む。
プロマンガ家に基礎から学んで
生徒たちの思いを受け止めながら指導に当たるのは、プロとして15年のキャリアを持つ火ノ鹿たもんさん(松本市)だ。
MGプレスの「マツモトデイズ」など複数の連載を抱えながら、各学年20人ほどのクラスで週2時間教える。さらに学年を問わずマンガ家を目指す生徒だけが集まる特別講座も。「大変だけど」と言いながら、まんざらでもなさそうだ。
例えば、ある日の1年の授業は、人気マンガの模写だった。1人の生徒に「大事なのは黒目の位置。恐れずいこう」と声をかけた。別の生徒とのやりとりでは、「この前よりきれいだね」「そうかな」「次はもっとよくなる」と励ました。
絵だけでなく、ストーリーやキャラクターの作り方などマンガ制作を基礎から教える。
仲間と指導者。「違う環境だったらマンガ家を目指していなかったと思う」と伊予柑さんは言う。
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同専攻の始まりは2006年度、前身である創造学園大付属高校のマンガ・アニメ科開設だ。20年度にマンガ・イラスト科に改称。22年度、在学中の進路変更をしやすくするため普通科のマンガ・イラスト専攻になった。
火ノ鹿さんが外部講師となって4年目。有望な生徒を同人誌即売会に連れて行き、大手出版社に売り込ませる“課外授業”もするが、予想外に担当編集者が付くケースが増えてきたという。「成果が出てきた。やりがいがある」と火ノ鹿さん。
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