食べないから足りなくなった
「令和の米騒動」とは何だったのか―。売り場のコメが高くなったり、なくなったりした今夏。加工業者や研究者に聞くと、コメが食べられなくなってきた長年の傾向が背景にあるという。
小中学校の給食供給などをしている豊炊飯(松本市市場)の小山哲生社長によると、同社でコメ不足はなかったという。一般に加工業者は生産者や問屋と年間契約し、優先的に確保できる。
一方、スーパーのような小売店は需要に応じて随時買い付けることが多く、供給不足のあおりを受けやすい。
とはいえ、今夏のような事態にまでなるものなのか。
小山社長は、在庫に偏りがある、とみている。「例えば北海道では余っていた」と流通の問題を指摘する。
また、食品業界に詳しい茂木信太郎元信州大教授は、小売店が普段からあまり在庫を持たなくなったことに注意を促す。なぜ在庫を持たないのかというと、端的には売れないからだ。
総務省の家計調査によると、1世帯当たり年間のコメ購入額は、1990年に6万2千円余りだったが、昨年は2万円強と3分の1以下になった。
この間、パンや麺類の方が買われるようになった。「若い世代ほど、コメはたまに買うものになっている」と茂木元教授。
食べないから、コメの在庫は世帯レベルでも少ない。そこへ不足感が伝わると、備蓄の動きにつながりやすい。増える購入量に小売りが即応できず、店頭からなくなる。家庭や流通各レベルでの在庫の少なさが、不足の連鎖を引き起こす。
平成の米騒動は、93年の作況指数が74だったことが引き金だった。令和の場合、昨年の指数は101と高かったのに、社会がざわつく不足感が起こった。コメ産業の余裕のなさが表れた。
騒動という表現は、食卓の実害からすると大げさだが、「日本人の主食」の地位の揺らぎを実感するには適当かもしれない。