
慰みに訪れた地での幸運
9月20日午後、風に波打つススキの海原を撮ろうと、白馬村のスキー場跡地を訪れた。
脳裏に描いた構図の中で、銀色に揺れる広大なススキの海原…。だが目の前に広がるのは、木々が生え山林化が進む、想像を絶する光景だった。10年ほど前に出合った銀色の光彩は、もはや幻となってしまった。
撮影できなかったむなしさを慰めようと、北アルプス・鹿島槍ケ岳が最も美しく観望できる小川村経由で帰途に就いた。鹿島槍ケ岳は、大町市と富山県黒部市、立山町に県境を接している。
小川村の展望台に立つ。南峰(2889メートル)と北峰(2842メートル)が寄り添う双耳峰のシルエット。夕景として鮮やかに浮かび上がった。
双耳峰はさまざまな被写体と絡み、絶景をつくり出す。夕日、満月、三日月、星座、花粉光環…。半世紀を超える取材で最も印象深いのは、昨年3月のスギ花粉による花粉光環である。双耳峰に架かる虹の輪。初めて出合う夢のような、驚愕(きょうがく)の光景だった。
撮らせてくれた大自然と鹿島槍ケ岳に感謝し、展望台を後にすると信じられない光景に遭遇。日没前、吉兆とされる鮮やかな彩雲が、双耳峰と共演していたのだ。幸運の夕暮れとなった。
(丸山祥司)
