
「木の根っこから世界が広がっていく感じ」「古代に人と鹿が争っているよう」「ラテアートっぽい」ー。大町市で開催中の「北アルプス国際芸術祭2024」の作品の一つ、大町エネルギー博物館(平)外壁の巨大壁画の前で9月30日、大町南小学校6年1組の児童が自由に感想を出し合い、作品鑑賞を楽しんだ。
作品に使われたのは市内各地の土。児童は土について学び、土で絵を描く体験を経て鑑賞した。「大町に赤い土があるの?」「水を加えて色に変化を出したのでは」。実体験に基づき、疑問や想像がどんどん膨らんだ。
芸術祭実行委員会は、作品に使った地元素材の学習と対話型鑑賞をセットにした「アートスタディツアー」を初企画。3回目となる芸術祭を小中学生の学びにも生かそうと注力する。
作品や地域の見方広げ深めて
11月4日まで大町市で開催中の「北アルプス国際芸術祭2024」。11の国と地域の37人・組のアーティストが、大町市の自然や歴史、人々の営みなどから着想を得た現代アート作品を市内各地で展示、披露し、地元の素材を使った作品もある。
2017年、21年の過去2回の開催時同様、会期中は市内小中学校の児童、生徒(一部の学年除く)が作品鑑賞に訪れる。加えて今回は竹、土、木いずれかの地域素材の事前学習と、その素材を使った作品の対話型鑑賞を合わせた「アートスタディツアー」を、希望した市内5校21クラスに実施する。
淺井裕介さん(東京)が17年と21年に手がけた大町エネルギー博物館の壁画「土の泉」は、市内で集めた幾種類もの土で描かれており、大町南小6年1組(19人)は9月26日に土について学びを深めた。児童は、同校を訪れた実行委員会スタッフから土の成り立ちを学び、学校敷地内の数カ所から採取した土の色や手触り、混入物などの違いを観察した。
「土で絵が描けるのか」。児童たちはその土を使った実証に挑戦。土に混ぜる水の量を調整して濃淡を出し、好きな題材を指先や草、わらなどを使い大胆に描いた。水をたっぷり載せた紙に土を振りかけたり、泥を勢いよく紙に投げつけたり。多彩な“技法”と感性で仕上げた作品を鑑賞し合った。
4日後、「土の泉」をいざ鑑賞。スタッフをファシリテーター(進行役)に、4、5人の班で壁面に近づいたり遠ざかったり触ったりして、印象や発見を自由に出し合う。どんな見方をしてもいい前提で、自分なりの題名や絵の中のストーリーを語る児童も。級友の発言を聞いて「なるほど」「確かに見える」などの共感も聞かれ、時間が足りなくなるほど盛り上がった。
赤松陸さん(12)は「事前学習をするまで土で絵を描く発想はなかった。大町に砂岩があると知り興味深かった」、小林幸佳さん(12)は「大町には何種類の土があるのか気になる。友達のいろんな見方を聞くのも楽しかった」と話した。
竹を学ぶ内容では、八坂公民館をぐるっと囲んだヨウ・ウェンフーさん(台湾)の「竹の波」を鑑賞。作品の一部に使われた八坂地区の竹の種類や性質を学び、竹で簡単なものづくりを体験した上で作品に向き合う。
実行委は「作家が大町を知り学んで選んだ素材に注目し、地域へ目を向けてほしい。わいわいと感想を言い合いながら鑑賞できるのも、芸術祭ならでは。一つの正解を見つけるのでなく、ものの見方を広げ深める機会になれば」と期待する。
市外からの同ツアーの問い合わせなどは、実行委事務局TEL0261・85・0133
【北アルプス国際芸術祭子どもの作品鑑賞料金】15歳以下は無料(入館料が必要な施設あり)。「キッズパスポート」(スタンプラリー台紙)、子ども向けの楽しみ方や海外の参加作家などを紹介する「キッズガイド」を各インフォメーションセンターで配布。一般の作品鑑賞パスポート料金は3000円、16~18歳は1500円。