
木曽町福島の「かねまるパン店」。店内に入ると壁に飾られたオリジナルのトートバッグやTシャツ類が目に飛び込んでくる。買い物金額に応じてプレゼントしている同店のノベルティグッズ(販売促進用の景品)で、30種類以上ありそうだ。
「デザインがかわいいから、歴代の品を飾っている」と同店の大橋けい子さん(68)。2021年から始め、エコバッグは1カ月ごとにデザインを新調。SNSで発信すると、その都度バッグを目当てにパンを買いに来る客もいるという。
グッズは愛知県半田市で会社を経営する山田一雄さん(73)が無償で提供。「木曽に恩返しを」と、コロナ下の売り上げ低迷期から協力している。町内の10店ほどが取り入れ、店のPRに一役買っている。
多彩なグッズ口コミで人気に
木曽町福島のかねまるパン店は、1952(昭和27)年創業で、牛乳パン発祥の店(諸説あり)といわれている。牛乳パンのパッケージデザインは店主・茂さん(71)の母・みさ子さん(97)が当時、幼児だった茂さんの顔をモチーフに描いた。昭和レトロな雰囲気で人気が出た。
エコバッグはそのデザインを基に、山田一雄さんの紹介で名古屋市の大学生などが描いている。少しずつアレンジして最新作は29作目。1200円以上パンを買った客にエコバッグを、それ以上は金額に応じてエプロンやTシャツを渡すなど、多彩なグッズを用意している。
ノベルティはパンを買いに来店した山田さんの提案で、2021年春からスタート。同店の大橋けい子さんは当初、エコバッグやTシャツそのものをオリジナル商品で販売してはと考えたが、「パンを買ってもらうことが目的。デザインも変えていくことが大切」という山田さんのアドバイスを受けた。
新しいエコバッグが出るたびにSNSで発信すると、バッグを目当てにパンを買いに来る客が増えた。20年のコロナ下で低迷していた売り上げも上昇し、同店の救世主に。「このようなアイデアは思い浮かばなかった。本当にありがたい」と大橋さん。
みたけグルメ工房(同町三岳)では、弁当などを入れるトートバッグや名前入りのドリップコーヒーなどを購入客にプレゼント。トートバッグは大小2種類、底部にマチがあり水にぬれにくい素材で作られている。旬の野菜、果物と妖精が描かれた7種類ほどがある。
同工房も購入客全員へのプレゼントは初の試み。組合長の西尾礼子さん(83)は「『使いやすい』とお客さんがとても喜んでくれる」と笑顔。11月末まで施設改装中で休業だが、12月から再開する。従業員の仕事着も山田さんが手がけた。「(山田さんは)気取らないし、威張らない。お客さんを呼んでくれる神様のような存在」と感謝する。
山田さんは義父が50年以上前の毎夏、木曽に3カ月ほど滞在していた縁で遊びに来るようになった。自然豊かな土地柄などが気に入り、今でも定期的に足を運ぶ。
長らく大手繊維会社を経営し、現在は主に不動産賃貸業を営む山田さん。コロナ下で町内店の売り上げが低迷した際に、「大好きな木曽に先代の恩返しも兼ねて貢献したい」と、ノベルティグッズをすべて無償で手がけることを決意した。
繊維会社のノウハウを生かし、布製品の製作を木曽の知人に申し出たという。その後、紹介や口コミで広がり、飲食店や菓子店など約10店舗が取り入れている。記者も以前、導入店でノベルティを知らずに買い物をし、“サプライズ”に心がほっこりした。
「まったく気取らない人」と木曽の住民が口をそろえる山田さん。貢献活動をライフワークと考えている。「皆、業績が良くなってきたので、続けていきたい」