【写真スケッチ】乗鞍岳の秋模様

紅葉せず枯れてしまったが、赤い実を例年よりたわわに付けたウラジロナナカマドが新雪の剣ケ峰(左)、蚕玉岳と共演。快晴の下で有終の美を飾る(10月13日午前8時18分)

 

松本市と岐阜県高山市にまたがる北アルプス乗鞍岳の紅葉スポットは、松本市側の乗鞍エコーライン沿いに広がる。紅葉は例年だと9月中旬に始まるが、今秋は10月上旬になっても異常な高温が続き、本格的な秋化粧が半月以上遅くなった。半世紀に及ぶ取材でも記憶にない光景を、カメラでスケッチした。

「天空のパワースポット」から南アルプス方面を望む(10月13日午前7時36分、宝徳霊神~肩の小屋口バス停間で
雲間から一瞬差し込んだスポット光が、一株のウラジロナナカマドが緑のハイマツのステージで演じる舞を照らした(10月6日午前7時10分)
例年はハイマツの緑と燃えたつ紅葉が共演するが、今秋は鮮やかな赤い実が彩りを添える(10月6日午前10時39分、乗鞍エコーラインから)
剣ケ峰下部に現れた初冠雪とハイマツが織りなす不思議な模様(10月13日午前9時37分、1200ミリの超望遠レンズで撮影)

高温で半月以上紅葉遅く

【今秋の主役は黄金色のダケカンバ】
乗鞍岳の紅葉の魅力は、真っ赤に色づき存在感を際立たせるウラジロナナカマドの鮮やかさにある。10月6日午前7時半、標高2462メートルの乗鞍エコーライン沿いの撮影場所に立ち、思わず目を疑った。例年なら紙面を飾る大きな株のウラジロナナカマドの葉が、全て枯れていた。
標高2534メートルの宝徳霊神バス停付近から上は、一面緑のハイマツ帯が広がる。その中に点在し、群落をつくる色づいたウラジロナナカマドの真っ赤な領域は、補色の対比を際立たせ、大自然のパッチワークさながらの光景をつくり出す。だが、その光景は今秋は見られない。葉が落ちたため、赤い実が例年以上に鮮やかだ。
代わって主役を務めたのは、黄金色に輝くダケカンバだった。レンブラントライティング(斜光線)と雲間からこぼれるスポット光を待った。
大陸から高気圧が張り出した12日夜から13日早朝にかけ、一帯はこの秋一番の冷え込みに。畳平にある乗鞍スカイライン管理事務所の田中剛二さんによると、最高峰の剣ケ峰(3026メートル)、奥の院と呼ばれる大日岳(3014メートル)、蚕玉(こだま)岳(2979メートル)、朝日岳(2975メートル)が初冠雪した。13日午前6時20分の畳平の気温は、氷点下2度だったという。
13日午前7時40分、位ケ原(くらいがはら)の標高2507メートル地点のエコーラインから仰ぐと、特に蚕玉岳が真っ白だ。北側を仰ぐと槍・穂高連峰がびょうぶのように迫り、雲表はるかに浅間山、八ケ岳、南アルプス、中央アルプスと続く雄大な眺望が広がる。位ケ原周辺は「天空のパワースポット」とも呼ばれている。

この秋一番の冷え込みで氷点下となった朝、霜をまとって咲くイワギキョウ(10月13日午前7時45分)

【霜をまとい咲くイワギキョウの花】
県境に近い標高2715メートル付近の登山道沿い。高根の春から秋を懸命に彩った高山植物たちが、長い冬の眠りにつく前のかすかな呼吸を聞きたくて、氷点下に息づく小さな命にカメラを向けた。紅葉したハクサンイチゲ、ミヤマダイコンソウ、チングルマ…。
そして驚きの光景が。霜をまとって咲くイワギキョウの花を見つけたのだ。なんと強靱(きょうじん)な生命力だろう。そのけなげな姿に勇気をもらい、心を奮わせながら帰途に就いた。(丸山祥司)
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