連載100回 特別記念号[THE CROSS ROAD 特創商見聞] No.100 「松本商工会議所」 (会頭 赤羽 眞太郎)

「創商見聞 クロスロード」は連載100回目。MGプレスの前身、松本平タウン情報の2016年7月からスタートし、これまで数多くの創業者や事業承継者を紹介してきた。記念号としてタイトルを「THE CROSSROAD×特創商見聞」とし、松本商工会議所の赤羽眞太郎会頭に最近の所感や今後の展望を聞いた。

今こそ人間関係を深める

【あかはね・しんたろう】76歳、松本市中町出身。松本美須々ケ丘高校卒。1997年4月デイリーはやしや代表取締役社長就任。グループ会長などを歴任後、202366月最高顧問就任。22年11月、17代目松本商工会議所会頭就任。

松本商工会議所

松本市中央1-23-1 ☎0263-32ー5355 

―就任約2年になります。所感を聞かせてください。
 世の中の変化のスピードが本当に速いと感じます。速さに対応しながら「変わらなきゃいけない」思いは、副会頭の頃から持っていました。でもどういう形で変えるべきなのか、今も悩み続けています。
 答えは見えていませんが、「商工会議所って何だろう」を原点に、会員の皆さまと地域経済を活性化して、発展成長させていくのが会頭の役目と感じています。
 もっと人間関係の構築をしていきたいとも感じました。つながっているようで、大きな壁のようなものがあるのが、現状の「横関係」です。
 言い換えると、塩尻商工会議所や大町商工会議所、中信地域、県内の商工会議所と、もっと連携を深めていくのが大事なのではないかと感じます。
 当然これまでも連携はしてきているし、協力して進めてきた事業は数多くありました。
 にもかかわらず、商工会議所だけでなく、行政、法人、学校関係など、あらゆる所の多くのシーンで「見えない壁」が問題点として浮き彫りになります。なぜでしょう。
 今こそ、人間関係を深め合い、助け合ってつなぎ合う「商売の根源」を、発信することが大切な時期だと感じています。
 会頭となり、多くの経営者、創業者と出会う機会が増えました。売上規模、企業規模に関係なく、またコロナ禍とも関係なく、成長している組織があります。数は多くないかもしれませんが、この地域でも「根を張り始めた会社」「根が成長している会社」があることは、素直にうれしいです。
 特に「根が成長している会社」は明るい。人間関係が良い証拠だと思います。
―最近の松本の経済状況をどう感じていますか。
 世界中を震撼させた疫病禍の中にあったからこそ、改めて松本はよそより少し恵まれているすてきな観光都市と感じます。新型コロナウイルス感染が感染症法の5類に移行し約1年半になりますが、松本は明らかにインバウンドの恩恵を受けています。街を多くの外国人観光客が歩いていて、にぎわいを取り戻しつつあります。
 飲食業などは、人手不足によりサービスの制限をせざる得ない現状もあり、苦慮しているようです。
 ものづくりでは、受注はできても、原材料高騰などにより利幅が小さいことや人手不足による仕事が限られる、などの状況が生まれています。
 ラーメン1杯70円、給料は5万円未満の時代を、若い頃過ごしてきました。苦しい時もありましたが、現在の生活苦とは違う印象です。
 物価も人件費も、時代の経過と共に変化して対応しているけれど、どこかで過去より大幅な変化に対応できていない、とも感じます。
―2025年は初頭から百貨店閉店などがあり、中心市街地は変化していきます。
 大繁盛してきた時代も見てきたので、閉店はとても残念に感じます。中心市街地活性化は慢性的・継続的な課題となりつつあります。
 地元商店主だけでなく、起業家を含めた経営支援、補助金・助成金支援、リノベーション支援などをどう継続していくか。魅力的な新しい店やサービスの提供、地元の歴史や文化を生かした観光スポットの整備など、課題は多くありますが、丁寧に現場間で話し合っていけば、解決できる可能性はあると思います。

 ただ、近年これだけ自然災害が多発しているので、方向性として、街づくりも災害対策を大前提にした安全策が必要。商工会議所の会頭としてしっかり発言していきたいです。
―連載「創商見聞」では、多くの創業者や事業承継者の話を聞いてきました。松本商工会議所の、創業への展望を聞かせてください。
 経営支援は2000年から正式に事業としてスタートしました。創業から事業承継まで、中小事業者の経営に関する相談業務を担っています。特に創業支援では、松本市の新規開業家賃補助事業、新規開業支援利子補給事業と連携支援を行い、毎年多くの新規創業者を輩出できました。現在も年間約200件の相談があります。
 24年間で1260件の創業支援をし、その後も創業セミナー、創業スクールを開催。毎年50人前後が受講されています。
 商工会議所としてこれだけ多くの創業者を輩出できたのは、誇れることです。
 ではサポートを受ける側(創業者)はどうか。お店を出すだけで満足していないか。これから経営者としてどうなりたいか、どうしたいか。少しぼやけているところもある創業者が多いのが実態です。支援に頼り過ぎている印象もあります。
 自分は昔から「商売はつぶれるようになっている」「お店は明日続かないかもしれない」と強く意識していました。つぶさないためにはどうするか、常に考えてやってきました。危機意識を希薄にしないよう、後方支援のようなイメージでの経営サポートを、これからもしていきたいです。


―新しい取り組みは。
 副会頭の頃から感じていましたが、新しい取り組みこそ本当に難しい。 地域総合経済団体として、全国の商工会議所は活動しています。当然ながら行政と関わり、両輪としてバランスよくマネージメントしていくことが理想です。
 互いの立場やビジョンなどを協議していくことは難しい。しかし、ここでこそ人間関係を深めたい。特に「現場」を強く連携させたい。トップや役員ではなく、実際に現場対応している各セクションのコミュニケーションを円滑にさせていくことが必要だと感じます。
 県内には商工会議所が18、商工会が69あります。塩尻と大町の会議所とは、広域連携をしてきました。安曇野市商工会とも昨年から正副懇談会などを行い、情報共有や交流を進めてきました。
 もう一度中信地域の経済団体が一体となり、取り組んでいきたいです。
 進めている新しい取り組みですが、各県第2の都市である姫路(兵庫県)、倉敷(岡山県)、福山(広島県)、北九州(福岡県)、松本の5市の商工会議所が、広域連携協定を締結しました(22年10月)。各市とも豊かな歴史的資源を持つ共通点がある。課題の情報共有や産業振興などに取り組んでいます。
 また、信州まつもと空港の活性化も進めています。今年は、空港ジェット化30周年記念事業を実施しました。月には沖縄チャーター便運航を2年連続で行います。今後は、全国商工会議所観光大会の松本誘致などを計画しています
 ただ、中心市街地活性化と同様に、災害対策は空港関係も重要です。観光拠点だけでなく、ライフラインのハブ機能も視野に入れています。松本市防衛協会事務局が松本商工会議所にあります。シミュレーションだけでありたいですが、もしもの時に対応できるよう計画していきたいです。

やっぱり大きな夢と目標を持ってほしい

 ―次世代の創業者にメッセージを。
 今回は創業関係を中心に話をしてきましたが、松本商工会議所はさまざまな事業を展開しています。経営全般の支援はもとより、DX推進、経営者・従業員の共済、簿記などの検定やセミナー、松本ぼんぼんなどイベント活動もしているので、小さなことでも気軽に、何でも相談に来てほしいです。
 創業者や事業承継者など、これからのビジョンを描いている方々には、やっぱり「大きな夢と目標」を持ってほしいと思います。
 コンビニエンスストアの弁当や総菜などを基幹事業とする「デイリーはやしや」で、社長業を30年務めてきました。自分の経験しか話せませんが、やはり高い目標を掲げないと、事業継続は困難です。目標を高くすることは、従来の考え方や方法を変えることにつながります。大きな目標を掲げ、100%達成するのは、さまざまな課題や社会情勢などの変化から非常に困難なものです。
 でも、その高い目標を目指すことで、考え方や方法を変える必要があることに気づき、実行することで成果につながっていきます。
 仮に目標を「10万円を得たい」と考えます。決して大きくないお金ですが、簡単に手に入るようで入らない場合もあります。 
 しかし考え方を変え、100万円頑張る目標にすれば、10万円が1割になり、努力すれば十分可能な範囲になります。おのずと考え方が変わり、仕事の方法も変わり、結果として成果につながってきたことが何度かありました。現代はただ売り上げの拡大を目的にしては駄目な時代です。必ず頭打ちになります。難しい時代になりました。でも、変化を見ながら先を考えることは、今も昔も変わりありません。
 デイリーはやしやでも時代の変化に対応したことがあります。おにぎりや弁当の売り上げにも限界が来ました。その時、やはり「原点や根源」に着目することが大事と考えました。おにぎりの原点=「コメ」の研究を始めました。研究の結果、今まではコメを窮屈に握っていましたが、空気を含めて包み込むと、圧迫されずふっくら仕上がることが分かりました。おいしいおにぎりや弁当の生産に成功し、良い売り上げにつなげられました。
 原点や根源を見つめ直し、時代の変化を常に注視し対応すれば、経営はおのずと広がるようになります。日々創意工夫を続ける必要はありますが、必ず大きな夢と目標を持った創業者になってほしいと願います。だからこそ、人間関係を深めることが大事です。結局は人と人との関係性で事業は好転していきます。縦関係、横関係さまざまな場面がありますが、大事に、丁寧に共存していってほしいです。
(聞き・書き) 田中信太郎

松本商工会議所会館 

設 立 明治41年6月6日
会員数 4,182事業所(令和6年9月30日現在)
部 署 総務部、中小企業振興部、地域振興部、情報事業部、DX推進部
職員数 52名