【醸し人】#19 suginomori brewery 杜氏・入江将之さん

飽きない複雑なおいしさを

旧中山道「奈良井宿」(塩尻市奈良井)にあった「杉の森酒造」が「suginomori brewery(スギノモリブルワリー)」に生まれ変わったのは2021年。その夏に移り住んできた杜氏(とうじ)の入江将之さん(39)が、ここならではの酒造りを探求している。
蔵は、江戸時代から変わらない標高940メートルに立つ。宿場から見上げる山から水を引き、県産米を使って、信州ゆかりの協会7号酵母でこうじを醸す。
道具立ては手近で伝統的。なのに出来上がりはすこぶる斬新だ。
瓶はつや消しの黒でシックに装う。銘柄は基本的に「narai(ナライ)」一本。価格も一律、破格の5500円(720ミリリットル)だ。
「ものを作ってビジネスとして続けるために、人件費、原材料費、ランニングコストとかを考えたらこれくらい。今の日本酒が安すぎると思う」
特別感たっぷりの商品だが、できれば日常的に長く飲み続けてもらいたいという。原点は、酒好きがそろった実家の食卓だ。
福岡県出身。大学院で流体力学を修めた。もの作りへのこだわりと、酒への興味から酒造りの世界へ。佐賀、石川、兵庫、京都の酒蔵で経験を積んだ。
現職のオファーを受けた時、奈良井宿は知らなかった。だが、少人数でこだわりの高品質を出そうというコンセプトを聞いて、「チャンスだと思った。頭の中で造る酒は構築していた」と決心した。
飲み飽きないために複雑なおいしさを目指す。「派手さや過剰な香りはいらない。お米の苦さ、渋さも生かしたい」。同じ醸造酒として、塩尻ワインの造り手からヒントをもらうという。
「コンパクトな酒蔵づくりを軌道に乗せ、奈良井から発信していきたい」

【沿革】
スギノモリ・ブルワリー 前身の杉の森酒造は1793(寛政5)年創業。2012年に休業したが、21年に宿泊事業などを手がけるKiraku(キラク)(京都市)が継承、スギノモリ・ブルワリーとして再生した。築180年の酒蔵は作業場を3分の1にし、設備を新調。今年9月から新たに蔵人が加わり、2人体制になった。

【入江さんおすすめこの1本】
narai kinmon(720ミリリットル5500円)

【相性のいい料理】
キノコのホイル焼き

【連絡先】
スギノモリ・ブルワリーTEL0264・24・0340
info@narai.jp