「一点物」目玉に絹の魅力発信
帯などの和装品からストール、眼鏡ケースといった小物まで、絹製品を一手に扱うインターネットサイトができた。どれもここでしか手に入らない一点物。全て県内のメーカーや工房の直売品だ。
運営するのは、ナガノハンドシルク協同組合(事務局・松本市中山)。製糸、染織、縫製など、業種を超えた9社でつくる。今月、ホームページをリニューアルし、ネット販売=こちらから=も始めた。
ページは外注し、スタイリッシュにした。絹産業に向けられる熱のない視線の転換を狙った。「過去のものとして扱われるのはうんざり。『懐かしい』から『新しい』へ変えたい」と事務局を務めるシルクラボ松本の清水武彦さん(72)。伝統の技術に新しい感覚を織り交ぜてアピールしていく。
若手を巻き込み業種超えた挑戦
ナガノハンドシルク協同組合は今月、ホームページ制作を依頼したズーム(松本市島立)の担当者を招いて、研修会を開いた。
サイトの画面でどう商品を分類するかが議論になった。種類別にするか、それともメーカー別にするか。
組合の紹介という意味ではメーカー別が望ましいが、「買う物を会社名で探す人なんておらんよ」という声が出た。「そりゃそうだ」。種類別に並べることになった。
かつて絹産業は日本の主産業として近代化を支え、信州は蚕糸王国とも呼ばれたが、衰退がいわれて久しい。製品は日常から遠くなり、業者の名前を知る人はまれだ。
ただ、数は激減したが、信州には熟練の技術がそろっている。蚕種、製糸、染織、縫製…。県内だけで絹を一貫して扱える。その強みを生かし、力を合わせて絹の魅力を発信していこうというのが、今回の試みだ。インスタグラムも始めた。
「状況を変えることがなかなか難しいのは分かっているが、きっかけになればいい。お客さんの反応を直接感じて、こちらが何かに気付く可能性もある」と清水武彦さん。松本市中山で衣料・雑貨店「絹工房」を開いて30年、今回はページや商品管理の実務を担う。
目玉としたのが、ここでしか買えない一点物だ。「われわれは同じものを大量に作るということが、もともとない。希少性とその良さを示したい」と組合理事長の久保田治秀・久保田織染工業社長(79、駒ケ根市)は言う。
ただ、何が売れるか分からない。「着物にこだわらず、絹の良さを生かせる企画を出してほしい」という呼びかけが研修会ではあった。繭そのものも売ってみる。
若手の活躍の機会にしたいという狙いもある。マイナック(飯田市)の市瀬優専務(37)は「今まで縫製一本でやってきたが、新しいことをしないと。社内からはなかなかアイデアが出ないが、組合でみんなとやると違う。仲間がいるから広がっていく」と、期待を口にした。
研修会でもさっそく話し合ううちに体験イベントというアイデアが出た。「蚕を育てるところからやってもらうとか」「ゼロからのストーリー作りだね」
「夢は壮大。忙しくなるね」という声にみんながうなずいた。
ナガノハンドシルク協同組合 平成初期に県繊維試験場の一部会として「繊維素材研究会」が発足。2003年にナガノハンドシルク研究会に改称し、15年に組合の認可を受けた。全国の展示会への出品活動などをしている。メンバーは、藍染浜染工房、シルクラボ松本(以上松本市)、会信織物(長野市)、藤本つむぎ工房、染工房ラピスラズリ(以上上田市)、宮坂製糸所(岡谷市)、松澤製糸所(下諏訪町)、マイナック(飯田市)、久保田織染工業(駒ケ根市)。