「普通に見えても普通ではない服を作っていきたい」。こう話すのは東京モード学園(東京都新宿区)ファッションデザイン学科高度専門士コース4年生の高本結愛さん(22、塩尻市出身)。
新進デザイナーの登竜門ともいわれる「ナゴヤファッションコンテスト2024」(9月、名古屋市)でグランプリに輝いた。これまで何度も挑戦と挫折を繰り返した外部コンテストで初の入賞は、国内外から7470作品の応募があった中の頂点だ。
ファッションに関心はなかったが、高校2年生で参加した同校スタイリスト学科の体験入学で火が付いた。
イメージを形にしていく過程が楽しいという。「将来は自分のブランドを立ち上げたい」と高本さん。受賞を糧に次のステージに向け歩みは続く。
幾度の挫折も楽しさ原動力に
白い襟付きシャツとスカートにチュールやオーガンジー生地の装飾が映える。黄色やカーキ色などさまざまな布が描く曲線の重なりは、迫力がありエレガント。グランプリに輝いた作品のテーマは「竜巻」だ。
コンクール当日について高本結愛さんは「自分が作った洋服をモデルさんが着てランウエーを歩く姿は、感動したし、とてもわくわくした」。同時に、他作品の秀逸さに圧倒された。グランプリに自分の名前が呼ばれると「予想外過ぎてびっくり」。会場の一角に母親の喜ぶ姿が見え、うれしかったという。
受賞作品のデザインは3年生の時。授業で何となく描いた曲線が気に入り、そこからイメージを膨らませた。半年間、温めた後にコンクールに応募。予選通過の連絡があり9月の最終審査会まで制作に打ち込んだ。
生地を渦のように巻いて形状記憶させる部分が特に難しかったという。防水加工の生地を取り入れ、余る布を出さないなど見えない部分も大切にした。
塩尻市広丘高出出身。小学生の頃から好きな服の色は黒。「かっこいい女性に憧れていたのかな」。田川高校に進み、大学では心理学を学びたいと思っていたが、高2の夏が転機となる。
志望大学のオープンキャンパスに参加した際、“ふと参加した”東京モード学園スタイリスト学科の体験入学。多数の既製服から組み合わせを決めて写真を撮る体験に「何でこんなにわくわくするのだろう」。衝撃的な楽しさに引かれ、進路を変更した。
当初は母親に反対されたが、体験入学に同行し娘の姿を見ていた父親の説得で、東京モード学園へ。大学卒業と同等の資格が取得できる同学園の高度専門士コースに入学した。
専門的な技術を習得する学びは想像以上に難しかった。コンテストは学内外の50回ほどに応募したが、思うような結果が出なかった。クラスでは委員長を務めるなど活躍したが「こんなに芽が出ないなんてファッションの才能がないかも」。悩む時も多かった。
だが「やめたいと思う時もあったけれど、毎日の楽しさの方が勝っていた」。個性的な講師陣に刺激を受け、多くの留学生から異文化コミュニケーションの難しさを学び、美容など他学科との交流で感性を磨いた。
デザイン画を立体的な洋服にしていく試行錯誤が楽しいという。現在は卒業制作に取り組み、多文化や多様性を服飾で表現する。
アーティストとして憧れるのは、松本市出身の前衛芸術家・草間彌生さん。小学生の頃からファンで、学生時代も課題でテーマにしたほか、帰省のたびに同市美術館に足を運ぶ。「違和感が違和感でなくなるようなデザインが、普通だけれど普通でない服を目指す自分に力をくれる」
就職先は「独立に向け、学べることが多い」と服飾のOEM(相手先ブランドによる生産)を手がける会社に決めた。「服作りで古里に貢献できれば。それまで学べることは全て吸収したい」と高本さん。将来を見据え歩み続ける。