東京からの高速バスを松本市神林で降り、組み立て式自転車をこいで朝日村針尾のギャラリー「BLUE HOUSE STUDIO(ブルーハウススタジオ)」へ―。村を流れる水とそこに暮らす人たちとの関わりを写そうと、写真家の高橋侑也さん(28、東京都中野区)は4月からほぼ毎月、同スタジオに1週間ほど寝泊まりし、制作活動に励んでいる。
同スタジオ主宰の宇賀神拓也さんが今年始めた、若手アーティストを招いて行うアーティスト・イン・レジデンス(地域滞在制作)だ。高橋さんは滞在中、村内各地を自転車で巡ってモノクロフィルムで撮影し、スタジオの暗室で現像やプリントを行う。来年3月まで滞在し、個展開催や写真集発行につなげるという。「毎日新しい発見がある」と目を輝かせる。
自転車で村巡り 地域交流も
「もともと写真は趣味程度だった」という仙台市出身の高橋侑也さん。東京農業大農学部を卒業後、環境NGOのインターンとなりフィリピンの山岳地帯で植林などをした。法人誌に活動リポートとして写真や記事を掲載。その頃からドキュメンタリー写真に興味を持つようになり、帰国後は写真学校「現代写真研究所」に在籍して作品を制作。作品展示やガイドブックの撮影などを手がけた。
宇賀神拓也さんとは、東京で開いた個展を訪問して、交流が始まった。朝日村での滞在制作に誘われ、取り組むことになったという。
テーマを決めずにブルーハウススタジオを訪れた宿泊初日の朝、川のせせらぎが聞こえてきた。「こんなに近くで水の音がする」と感動し、水を撮影しようと決めた。
さらに、河川敷の草刈りや支障木の除去、ごみ拾いなどをして村民が水の自主管理をしていることや、川から水を引いて田んぼに入れていること、「水神様のお祭り」があることなど、水が生活に深く関わっていると知った。気候や自然などは生まれ育った仙台に似ているが、それまで感じなかった関係性を写し取りたいと撮影に取り組み始めた。
カラー写真は現実のコピーになるが、モノクロだと少し違った物に見えてくる。「村の人たちにとっても、日常を見直すチャンスになるのでは」と、自転車で村内を巡る。顔なじみや話しかけてくれる人も増え、「水に関する情報をもらったり、新鮮な野菜を分けてもらったりして、とても楽しい」と笑顔を見せる。
制作だけでなく、地域のためにできることをしようと、10月12日に太陽の紫外線で像を焼き付ける古典的な写真、サイアノタイプ(青写真)のワークショップを開いた。子どもから大人まで8人が参加。スタジオ近くの川沿いを歩いて草花や石などを拾い、それを素材にして思い思いに作品を作った。薬品を塗った紙の上に素材を並べて日光に当て、時間を見計らって液体などで洗うと、青みがかった紙の上に幻想的な像が浮かび上がってくる。思わず「うわあ、すてき」と声が上がる場面も。家族4人で体験した原和泉さん(42、同村西洗馬)は「子どもにも簡単にできて楽しそう。来たかいがあった」と笑顔で話した。
朝日村で撮りためている写真を基に、来年5月には「ZINE」(ジン、自主制作出版の写真集)を出版し、7月には同スタジオで個展を開く予定。「まだまだ知らないことがたくさんあるので、教えてもらえればうれしい。自転車で巡っている姿を見たら、声をかけて」と話している。
高橋さんの活動などはインスタグラムで見られる。