推しは“生坂村” 移住し創作活動と宿泊施設経営

築100年の古民家改装

「日本の原風景のような景色、空の広さ、星、人の温かさが好き」。画家で古民家をリノベーションした宿のオーナー、進藤彩さん(41)の推しは、自身が暮らす“生坂村”だ。
東京・浅草出身。15年前、「森の中に住みたい」と安曇野市穂高有明の別荘地に移住。その後、空き家バンクで見つけた生坂村の物件を見て、ユニークな構造に一目ぼれし、購入を決めた。
納屋はアトリエに、主屋は宿泊施設「一棟貸し隠れ宿くらやしき」に、離れは管理棟に。2人の子どもを育てながら、母の福地妙子さん(76)と共に、宿を切り盛りする。
畑の中で分かりにくく、宿の立地としては恵まれていないが、プライバシーを保てる、非日常を味わえるなど、不便さが強みにもなる。

「日本の原風景」村の魅力発信も

生坂村の小立野地区にある「一棟貸し隠れ宿くらやしき」。山道を進むと、畑の中にある。車がないとなかなか行けない、分かりにくいなど一見不便だが、日常生活では味わえない体験ができる豊かな場所だ。経営するのは、画家の進藤彩さん。母の福地妙子さんが管理人を務める。
空き家バンクに登録されていた築100年弱の古民家。平屋で160平方メートルほどで、土地は畑も含めると約3300平方メートルある。主屋の他、離れ、納屋などが立ち、半地下があったり、蚕部屋に上る小さな階段が付いていたり。ユニークな構造が気に入ったという。
主屋は昔ながらの造りで歴史を感じるたたずまい。「文化財のような建物で、継承したいと思った。生坂村に来るきっかけになればいい」と宿泊施設に改装することを決めた。名前も屋号のくらやしきにちなんで名付けた。
進藤さんは東京出身で、結婚後も東京に住んだが、「自然の中に家がほしい」と15年前、安曇野市穂高有明の別荘地に移住した。不動産関係の仕事をしていたため古い建築物を見るのが好きで、空き家バンクを検索。生坂村の物件を見て「唯一無二の風景。家が周りになく、空が広い。日本の原風景が広がっている。『ここだ!』と思った」と購入を決めた。
都会では子どもが育てにくく、精神的に追いつめられた。「田舎に住みたい」と痛切に思ったという。「絵を描くと願い事がかなう」と聞き、田舎に住んで楽しく暮らす家族の絵を描くようになった。描き始めると、不思議なことに物事が良い方向に変わり、移住も決まった。
絵は独学で技術を磨いた。木や食べ物がモチーフになることが多い。「毎日の生活の中に土があり、木が生えているのは貴重でぜいたくなこと。当たり前って、当たり前じゃないんです」と進藤さん。食べ物は幸せのベースといい、その思いが絵で表現されている。願いがかなった経験から、縁起のいい絵を描くことにしている。
周辺の環境だけでなく、地域ぐるみで子どもを大切にする風習にも感動した。「生坂はとてもすてきな場所。私の推しです」と力を込める。
「地元の人にお世話になった。地域貢献になれば」と、10月には100号サイズの絵「楽園~IKUSAKA」を村に寄付。現在、村営温泉宿泊施設やまなみ荘のエントランスに飾られている。生坂の特産品や生活などがぎゅっと詰まっていて、見ていると幸せを感じる一枚だ。
日本の原風景に溶け込むくらやしきは、生坂村の魅力を広く発信するツールだという。興味を持ち、村に足を運んでくれる人が増えることを期待する。「宿×アート」が進藤さん流の地域貢献で、推し活といえそうだ。
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