[創商見聞] No.101 「aroma和華」 (福島 和美)

香りを身にまとう

【ふくしま・かずみ】53歳、東京都目黒区出身。千葉県立成田北高校卒。バスガイドの仕事を経て、1999年大町市移住。2024年6月創業。香司(ひふみお香アカデミー認定)、アロマテラピーインストラクター、アロマセラピスト(公益社団法人日本アロマ環境協会認定)

aroma 和華

大町市平8000−519 ☎090-7128-3932

―馴染みの始まり
 東京で生まれましたが、高校は千葉県の成田空港の近くだったので、空港のレストランでアルバイトをしました。颯爽と歩くキャビンアテンダント(CA)にとても憧れました。
 卒業後は東京でバスガイドをしました。空の旅とは少し違いますが、CAに近い感覚もあったので楽しかったです。各地をガイドして、長野県もよく来ました。善光寺、松本城だけでなく、大町も何度もガイドしました。雪解けシーズンの立山黒部アルペンルートや夏の黒部ダムの放水など、数多く団体旅行をガイドし、大町に馴染みができました。
―香りに出合う
 7年ほど勤務すると、他の仕事もやりたくなりました。大手化粧品の関連会社で働き、都内の百貨店などを担当しました。化粧品に詳しくなり、そこで「香水」に出合いました。海外のトップブランドから国内品まで、たくさん収集しました。
 まだ20代で未熟でしたが、「香り」を身にまとうと、自分を「スイッチする」感覚、変えられる感覚を持てました。香水を付けると〝凛とした大人の女性〟に入れ替わった気持ちになれて、仕事やプライベートを楽しみました。
―移住して25年
 「自然の麓で暮らしてみない」。当時付き合っていた夫から軽く誘われたのが始まりです。1998年、27歳の時に大町市に移住し、28歳で結婚しました。「山がきれいでいい所」くらいの軽い感覚で、お互い無職になり、勢いで移住しました。真剣に考えていたら不安で来なかったと思います。遊びに行く感覚だったのですが、25年住んでいます。
―仕事の学び
 移住後、旅館やホテルで仕事をしました。でも、夫の仕事の生活スタイルと合わなかったこともあり、仕事を考え直そうと思いました。そんな時、アロマ関連のヘアケアメーカー、アルペンローゼ(大町市常盤)が、事業拡大の計画を進めている話を聞きました。
 「ラ・カスタ ナチュラル ヒーリングガーデン」がオープンする計画で、ブランドの世界観を五感で感じられる庭園を計画しているとのこと。面接を受けると、オープンにはまだ時間がかかるけれど、ヘアケア工場からスタートしないかと話をもらい、2002年に再就職しました。約20年お世話になりましたが、本当にいい経験をさせてもらいました。オープンは06年。準備段階から関わり、アロマテラピーの体験会やヘアケア商品の提供などを担当しました。
 仕事の学びも楽しく、自発的に探究してアロマインストラクターやセラピストの資格も取得しました。自分が知ったことでユーザーに生きた知識や使い方を提供できるようになりました。
 品質管理部門なども経験したので、ユーザーの安全性や、自然環境から生まれる天然の香りを実例から論理的に考えることなども学べました。
―目の前に向き合うものの変化
 仕事は安定していました。でも50歳になった頃、将来への不安や過去の後悔などが交錯した時期があり、かなり心境が変化しました。実は両親を早くに亡くしていて、親孝行できなかったことに深く悩んだことがあります。 
 いろいろ考えた結果、やっぱり今後の人生も大好きな「香り」で生きていきたい。香りをツールに社会の役に立てる人になりたい。一人一人に喜んでもらうことが、自分には合っている―と考えるようになりました。他界した両親への思いから、お線香やお香への興味が募り、仏教的な考え方も学んでいきました。「お香を作れれば親孝行になるかも」と感じました。
 2年ほど勉強し、作り方などをレクチャーできる「香司」の資格を取りました。


―学びと生き方
 資格を得て分かったことは、新しい学びは新しい生き方を作れる、ということです。
 これからの人生、大好きな「香り」で社会の役に立ちたい。創業したい思いが強まってきました。
 今年3月に退職し、創業準備を進めました。月末には市や大町商工会議所などが運営している創業支援協議会に相談。コーディネーターからアドバイスを受け、6月には税務署に開業届を提出しました。
 現時点では店舗も構えていないので、融資関係を含め具体的な創業支援は受けていません。でも、申請書類や会計関連などさまざまな助言のおかげで、準備は順調でした。また、同時にSNS活動をも進めたので、松本市や大町市、小谷村などで「お香つくり体験会」を開催できました。
 損益的な視点からすれば、まだ個人的な活動なのかもしれません。でもこの数カ月だけでもネットワークが広がったと実感しています。
―大切な嗅覚
 嗅覚の「記憶」は視覚や聴覚より鮮明に残るといわれます。また危険察知も嗅覚が脳に直結し敏感に反応します。
 本能的・生命的なことだけでなく、すてきな香りは一瞬にして気分を変え、心を豊かにすることもできます。
 まだ歩み始めたところですが、香りが人の心に寄り添うツールになればと思い創業しました。地域の自然素材からとれる香りを使い、癒やしの提供やロスケアを目的とした講座を開講中です。香りを身にまとう素晴らしさを、これからもっと体験会などで伝えていきたい。新しい出会いを大切にしたいです。
  (聞き書き・田中信太郎)