「じいちゃんとの約束を果たしたい」。ただ、そのために臨んだ大会だった。松本市沢村の会社員、伊藤貴裕さん(22)は、11月3日に開かれたベンチプレス競技の全国大会で93キロ級に出場し、ジュニア(23歳以下)の日本記録となる205キロを成功し優勝した。今は亡き祖父へ、感謝の気持ちと共に、吉報を届ける。
伊藤さんが出場した大会は、兵庫県姫路市で開かれた「第3回日本グランプリ姫路大会」。3回の試技で競うベンチプレス競技。伊藤さんは1回目は185キロに設定し、難なく成功。続く2回目に従来のジュニア日本記録(197.5キロ)を更新する200キロに挑戦した。
非公認ながら200キロの自己記録を持つ伊藤さんは、大会前まで「めちゃくちゃ調子が良く、何もなければ記録更新はできる」と、確固たる自信を持っていた。その言葉通り、2回目も成功。そして3回目にさらに記録を伸ばした。
がんを患い、闘病していた祖父が7月に亡くなった。生前、祖父を元気づけるため「日本記録を出すから見ていて」と言った。孫の快挙を見届けることなく亡くなった祖父との約束を果たし、伊藤さんは「それが何よりうれしい。きっとどこかで見ていてくれたはず」と、笑顔で語った。
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新潟県長岡市出身。ベンチプレス競技は高校時代から始め、左大胸筋断裂という大けがを機に、同競技で世界王者にもなった松本市島内のトレーニングジム「B.A.D.」のオーナー、鈴木佑輔さん(40)と知り合い、指導を受けるように。昨春同市に移住した。
現在は、同市渚1のスポーツクラブ「ルネサンス松本」で働きながら日々、鍛錬。直近の目標は、来年5月にノルウェーで開催予定の世界選手権で、83キロ級のジュニア世界記録211キロの更新だ。
伊藤さんは「この目標を達成してから、師匠(鈴木さん)と真剣勝負をして、そして倒したい」。