間口は広く就農のきっかけづくり
リンゴ狩りで終わらない─。松本市今井地区の農家たちが新しい農業体験事業を立ち上げようとしている。収穫だけでなく、農産物の選別や農地管理といった作業も組み込み、「僕たちの日常を体験してもらう」とリーダー役の横山竜大(たつひろ)さん(60)。消費者に生産現場のイメージを深め、関わるきっかけにしてもらう狙いだ。
10月30日朝、同地区のリンゴ畑で行政関係者ら10人余りが農園主に迎えられた。食べ頃の実をもぎ、6品種を食べ比べた。
ここまではよくある農業観光だが、この日はひと味違うシーンが用意されていた。
下草刈りをするモアという機械や高所作業車に試乗。実を規格に従ってえり分ける選果の仕方も教えてもらった。さらに近くの果実共選所に移動して、選果マシンが動く様子を見学。午後にはブドウの作業も行った。
果樹農家がこの時期にする作業全般を盛り込んだプログラム。「コアな農業体験をしてもらう」と、横山さんは趣旨を説明した。地元産の食材を使った食事を囲み、じかに農家と会話を交わすのもその一環だ。
松本でも農業人口の高齢化が進む。農地の維持には新しい担い手を呼び込む必要がある。間口の広い収穫体験から、さらに深い体験へといざない、楽しさを感じた人に担い手になってもらえないか─。
仲間と「松本農未来プロジェクト」をつくる横山さんの構想に、行政がサポートして、まずは今回、モニター体験会を開いた。課題を検討し、来年以降の本格実施を目指す。
ただ、コアな体験でコアな農業者に、というわけでない。「兼業でいいし、県外から通う週末農家でもいい。そういう人でも山ほどいれば農地は維持できる」と横山さん。ここでも、間口は広く、だ。
「地域活性化のやり方はいろいろ。『農業体験のまち今井』もいい」。柔軟で大胆な発想から新しい実践が動き出した。