【醸し人】#20 ヴァン・ドーマチ・フェルム36 ヴィニュロン・矢野喜雄さん

味わいに土地の個性映し出す

北アルプス蓮華岳を眼前に仰ぐ、大町市平新郷。世界の銘醸地に似た地質や気候に目を付け、この地に10年前からブドウを植え始めたのが「ヴァン・ドーマチ・フェルム36」のヴィニュロン(栽培からワイン製造まで行う生産者)、矢野喜雄さん(54)だ。農福連携で育てるブドウが、ワインの味わいに土地の個性を映し出す。
埼玉県出身。東京の建設会社で働く「飲んべえ会社員」だった。職場の後輩のつながりでココ・ファーム・ワイナリー(栃木県足利市)と縁ができ、2003年に同社に転職。10年間は醸造の仕事に没頭した。日本を代表する醸造家の下で経験を積み、海外のヴィニュロンのブドウありきの姿に触れ、「栽培からやりたい」。欧州系品種に適したユニークな土地を求め、大町にたどり着いた。
決め手は地質と気候。「世界的には花こう岩土壌はワインに面白い影響をもたらす」。大町は、北アを形成する花こう岩と火山活動由来の火山岩でできた扇状地で、昼夜の寒暖差が大きく、乾燥した冷涼地。14年に家族とこの地に移り苗木を植えた。
「将来の世代に安全な畑を渡したい」。妻の久江さん(53)と有機栽培に励み、市内四つの福祉サービス事業所利用者が、栽培や瓶詰め作業の補助などに関わる。「皆さんと一緒につくる味。地道な手作業は間違いなく味に影響します」
醸すのは人為的な介入は極力省き、「体が自然に受け入れる味」というナチュラルワイン。「20、30年たつと味に土地の個性が色濃く出てくる。年々その片りんは感じる」と手応えをつかみ、「大町の地質と気候を素直にワインにトレースできたら」。ラベルに用いた蓮華岳を見やるのが、仕事終わりの日課だ。

【沿革】
ヴァン・ドーマチ・フェルムサンロク 2014年に大町市平でブドウ栽培開始。17、18年は委託醸造。19年に自社で初仕込み。現在は約2ヘクタールで欧州系15品種を栽培。自家栽培と、安曇野市明科の「季来里ふぁーむ・すずき」栽培のブドウで赤3、白2、橙1銘柄、年間約5000本(750ミリリットル)製造。来年2月か3月に赤3銘柄を発売予定。開始日や取扱店の詳細は公式ブログで。

【矢野さんおすすめこの1本】
ルメルシマン2023グラン・ブラン(750ミリリットル4400円)

【相性のいい料理】
安曇野産寿地鶏の胸肉を使った焼き鳥(塩)、タラの芽の天ぷら、信州吟醸豚の豚しゃぶ・カツレツ

【連絡先】
ヴァン・ドーマチ・フェルム36
440.yano@gmail.com