“きれい”を諦めない大切さを
「女性はみんな美しさを楽しみ尽くしてほしい」。そんな思いで、老人福祉施設を回る山本彩さん(38、安曇野市堀金烏川)。メイクケアセラピー検定に合格、福祉ネイリストの資格を持ち、利用者にマニキュア、爪磨き、ハンドトリートメント、メークをする。
子どもの頃から絵が好きで、イラストレーターとして活動。若くてかわいい子を描いていた。だが、30歳を過ぎ、美への意識が変わった。周囲に「私なんて」という人が多いことに、疑問を感じるようにもなった。そんな時期、介護美容の広告を見、「これだ!」。
資格を生かし、10月から施設訪問を始めた。高齢女性の気持ちが明るくなったり、刺激になったり。いつまでも美しくあることの大切さを広めている。
「うれしくて」高齢者も笑顔
高齢者のグループホーム「ほっとハウスほたかの家」(安曇野市穂高柏原)。福祉ネイリストの山本彩さんが、ネイルカラーやベースコート、爪磨きなど一式を持ち込み、同施設の一室で店開きをした。この日は5人にマニキュア、爪磨きをした。
マニキュアはピンクや赤など、好みの色を選んでもらう。山本さんが「今日は朝ご飯、全部食べましたか?」など話しかけ、和やかな空気をつくる。山本さんの穏やかな雰囲気にお年寄りは子どもの頃の思い出や家族との交流などを話し始める。
きれいに色が入った爪を見て「まあ、うれしいわやぁ」「初めてやってみた」「かわいい」などと手を見つめる。「これは誰の手ですか?」とおどける人も。初めてという79歳の女性は「うれしくて、うれしくて」と満面の笑みを浮かべた。
山本さんはイラストレーターとして活動、「目が大きく、細くて手脚の長い女の子を描くことが多かった」。
30歳を過ぎたり、離婚を経験したりして、女性として自信を無くしていた頃のこと。周りにいる女性を見て、「私以外、みんなきれい」と思うようになった。でも彼女たちは「私なんて」とそろって口にする。「みんなそれぞれ素晴らしいところを持っているのに」と、もやもやした気持ちを抱いていた。そんなとき、介護美容の広告を見、自分の行くべき方向が決まった。
ストレス軽減刺激になれば
メークをすると前向きな気持ちになったり、自信がついたりするといわれる。その効果を医療や介護福祉の現場で生かす、メイクケアセラピーの実用検定に合格。介護美容のスクールに通い、福祉ネイリストの資格を取得した。10月から、老人福祉施設への訪問を開始。現在は日本ケアセラピスト協会のビューティーケアセラピストの資格を取ろうと勉強中だ。
訪問を始めてから気づいたことがある。メークやネイルは「絶対必要ではない」「なくてもいい」と考えられているのだ。だから訪問を断られるケースもある。それでいいのか、と思う。「ネイルやメークをすると気持ちが上がるだけでなく、刺激にもなる。ストレスが軽減されるといい、お年寄りにいい効果が期待できるはず」と力を込める。
今後は施設に定期的に通うほか、お年寄りや障がいのある人が暮らす家への出張も考えているという。初回は無料で体験できるようにし、効果を実感してもらう。
「どんなコンプレックスがあっても、どんな年齢でも、女性はみんな美しい。美しくあることを楽しんでほしい」と山本さん。その思いを詰め込み、屋号は女性の最上級「Gi(ガー)rl(レ)est(スト)」とした。幾つになってもきれいでいたい。山本さんはそんな願いを形にする。
2回目以降はネイル、爪磨き、メークは2千円から。ハンドトリートメントは1500円から。