飼い主がおらず、自然繁殖で増え続ける野良猫に不妊化手術をし、繁殖の抑制や適切な飼育管理で共生を図る「地域猫活動」。松本市ではまだ事例の少ない町会単位での取り組みがスタートした。
同市中山の山あいに広がる埴原(はいばら)地区。自然が豊かでモグラや昆虫などの餌が多く、交通事故による自然減も少ないことから、5年ほど前から猫が徐々に増えている。推定で200~300匹ほどが生息するという。
埴原北町会では、住宅敷地へのふん尿被害などが地域課題となってきた。そこで本年度、常会長の高山加代子さん(58、中山)を中心に、町会として地域猫団体に登録。11月中に3回の捕獲を行い、不妊化手術に取り組み始めた。現状を取材し、今後の課題を聞いた。
不妊化手術など協力して実現
17日朝、松本市中山の中山東部公民館。本年度、地域猫活動に乗り出した埴原北町会の中島健吾町会長、活動の中心となる高山加代子さんや猫好きの有志らが、ずらりと並ぶ猫のケージを見守っていた。
夜行性の猫の習性に合わせ、餌を入れたケージを前日夕方、町内の2カ所に設置、深夜から朝にかけ13匹を回収。塩尻市のボランティア団体、マーマレードキャット(小口美智子代表)もノウハウを伝え捕獲器を貸し出すなど、全面協力した。
県内全域で地域猫活動に協力する、しんけん動物病院(長野市)の移動手術車も到着。松木信賢獣医師(43)が猫に麻酔を打ち、雌は子宮と卵巣、雄は精巣を摘出する手術を手際良く施し、目印のV字カットが耳に刻まれた。猫は室内で管理後、屋外に返した。
家猫7匹と外猫6匹の世話をし、うち外猫3匹を連れてきた中島さつきさん(48)は「外猫に餌をあげることに葛藤があったけれど、手術が済み、安心して外で暮らしてもらえる」と安堵(あんど)の表情。2回の活動で計29匹の処置が済み、高山さんも「個人では到底無理だったことが実現できた。地域の人も好意的に受け止めてくれ、新たなつながりもできた」と第一歩を喜ぶ。
「趣旨と手法」住民に理解を
県内で広がりつつある地域猫活動。野良猫がかわいそうと餌をあげる、野良猫のふん尿や鳴き声に迷惑しているといった住民双方の問題を解決するため、住民やボランティアを主体に、(1)地域にすみ着いた猫の把握(2)不妊化手術(3)適切な飼育管理(餌やトイレの設置)|を行い、頭数を適正に保つ。松本市では団体登録し手術を行うと、雌で最大が実費とほぼ同額の1万6500円、雄で同8800円を補助する。現在、市内に30団体の登録がある。
猫好きで、一昨年からは保護猫も迎え、計5匹を飼う高山さん。自分が住む地域にも地域猫の増加に伴う苦情があると知り、人ごとと思えず、「やるなら役員の今しかない」と動き出した。
埴原北町会内の地域猫は、目視での把握分だけで約100匹。町会の課題として手探りで取り組んできたが、成果とともに改善すべき点も見えてきた。
まず、地域猫活動の趣旨と手法をしっかり住民に理解してもらう点だ。回覧板で3度にわたり告知していたにもかかわらず、猫がかわいそうと、捕獲器に入った猫を放した住民がいた。
また、手術費用は町会予算から一時的に立て替えるが、頭数が多いため「2回で40万円ほどになり、出費の多さは厳しい」(高山さん)。市にはより現実的で使いやすい制度を求めていく考えだ。
今後、高山さんは「地域猫担当」として継続して活動に携わり、猫の生息マップの作成や、誰がどう管理するかなどを地域で共有する計画だ。「ここを手始めに、中山全体に地域猫活動が広まり、人と猫とがうまく共存するモデルケースになれば」と意欲を燃やしている。