松川にサツマイモ文化を―耕し手のない水田活用し10年目

米どころ松川村で育ち、熟成させて甘みを引き出したサツマイモが、静かな注目を浴びている。
同村の「細野集落営農組合」は、高齢などで耕し手のない水田を活用して畑作を行い、近年はサツマイモと切り花の露地栽培アスターが2本柱だ。10年目のサツマイモは、約60アールで栽培している。栽培地の水はけの悪さ、高冷地での貯蔵といった課題を乗り越え、作付面積や販路を徐々に拡大。大北地域の学校、保育園給食にも使われている。
「松川村にサツマイモ文化を育てたい」。髙田武組合長(83)らの夢は、10年を経て少しずつ実を結びつつある。出荷は来春まで続く。

深まる地域交流 次の手に意欲

「女性が好きなものならば、間違いない」。松川村の細野集落営農組合の髙田武組合長にサツマイモ栽培を手がけた理由を尋ねると、こう力説した。「今となると、私もおいしいと思いますよ」とにっこり。
2006年設立の同組合では当初、大豆や黒豆、タマネギ、切り花のヒマワリなどを栽培していた。より収益性の高い作物を検討する中で、連作に強く比較的手がかからないサツマイモが浮上。将来の需要も見越し、15年から栽培に取りかかった。
栽培を始めると、出荷までのイモの貯蔵方法が課題になった。防寒対策をしても低温の環境下では腐りが出やすい。18年1月、県農業改良普及センターの紹介で先進地の茨城県行方(なめがた)市付近の農家や施設を視察。長期間貯蔵に適した「キュアリング処理」を学び、導入した。
キュアリング処理は、収穫後のイモを気温30~35度、湿度95%ほどの環境に1週間近く置くことで、傷口にコルク層を作って腐敗菌の侵入を防ぎ、水分蒸発も抑えられる。処理後に選別や検査などを行い、気温13~15度ほどの高湿度の中に置いて熟成させ、出荷に備える。
村の「地域づくり活動活性化支援補助金」を活用し、同処理と熟成に使うコンテナ倉庫、自走式つる切り機やトラクターに装着する堀り取りアタッチメントを購入。品質や作業性の向上に本腰を入れ始めた18年度以降は、技術的な裏付けを取りながら作付けを拡大。近年は、べにはるか、安納芋、シルクスイートの3種類の苗計1万本を60アールに植え、平均年6~7トンほどを収穫。水持ちのよい水田だった畑では、畝の作り方など排水対策に工夫を凝らす。
JA大北や地元の青果物卸売業者への出荷が主で、大北地域の農産物直売所にも並ぶ。地元の学校、保育園給食の注文も増えており、髙田組合長は「生産の素人だったわれわれを、育てつつ販売してくれる存在がありがたい」と話す。
組合員は56人で、平均年齢は70代前半。設立以来手がける盆花の露地アスターは、5アールで栽培する。作物ごとのリーダーが計画を決め、非農家を含む地域の人も協力し、共同で作業に励む。
サツマイモグループのリーダーの一人、太田忠勝さん(77)は「元々が水田なので、定植や収穫時の天候の見極めといった苦労はあるが、給食など地元で消費が広がるのが一番いい。作業には大勢が集まりにぎやか。地域コミュニティー継続の面でも果たす役割は大きい」と話す。
設立時から組合長を務める髙田さんは、地域課題解決への専門知識を養う県シニア大学の専門コースで、組合の健全な自立経営の達成を研究した。「遊休農地対策を兼ねた地域の居場所づくり、情報交換の場として着実な手応えを感じている。若手を育て世代交代や6次産業化も本格的に進めたい」と意欲を口にする。