まだ水分が残る丸太を木工旋盤にセットして削る。木っ端と水が飛び、少しずつ形ができてくる時間は、木材が作品として新たな命を宿していく過程だ。
木工作家の土屋伸顕(のぶあき)さん(35、上松町本町通り)は工房「garade(ガレージ)419」を立ち上げ2年。乾いた木材を使用する作家が多い中、あえて水分を含んだ地元材を選び、節目や穴も個性に変える。
乾燥中に変形したりゆがんだりするリスクはあるが「樹木に作家が寄り添う作り方」が信条だ。
広島県出身。大学卒業後、工務店勤務から家具職人を目指し、県上松技術専門校(上松町)で技術を習得するなどして独立した。
独特な作品で勝負し、この冬は念願だった東京での展示も実現。活躍の場を広げつつある。
信念貫き素材の個性光る作品を
木曽町新開の作業場で作品を手にする土屋伸顕さん。木鉢の縁に空洞があるもの、表面に旋盤で削った跡の残るもの。他にはない仕上がりに、「もともと木はどれも同じ形をしていない。その個性を作品で出せれば面白いと思う」と話す。
屋外には積み上げられた丸太がある。伐採請負業「木曽ツリーワークス」(同町)が、郡内で特殊伐採(伐倒できない場所にある木に登り上から少しずつ切っていく方法など)したものだ。代表の千村格(いたる)さん(49)によると、特殊伐採した木材は樹種も大きさもばらばらのことが多く、ほとんど市場に出せず作家の目にも触れなかった。
土屋さんと出会い活用できるようになった。水分が残り穴の開いた丸太を必要とすることが、最初は不思議だった。完成品を見ると、野性味あふれる個性的な仕上がりに驚いたという。
主に木曽郡内の作家の作品を展示販売する、木曽町の「ギャラリーカフェSOMA」でも、外国人観光客に人気だ。「木曽の良さを作品で発信してほしいし、今後もいろいろな樹種に挑戦してほしい」と期待を寄せる。
広島県出身。大学で木工の立体造形を学び、同県の工務店兼建築事務所に就職、4年ほど働いた。家具職人を志し2018年、県上松技術専門校へ。修了後は東京の家具工房で3年間修業し、「クラフトをするなら信州」と22年、上松町に移住し独立した。
主な作品は旋盤を用いて制作する鉢や花器など。販売はクラフトイベントへの出展で、「木曽の手仕事市」や「クラフトフェアまつもと」などに参加してきた。
古道具や東アジアの器など“絶妙にゆるいもの”が好きだという土屋さん。木工の器は“つるつるの表面に仕上げられたもの”がイメージとして定着する中、わざと均一に作らない。客から面と向かって「これは駄目だ」と言われたことも。出展に際し審査のあるイベントでも、落選が続いた。
それでも信念を貫き制作。器を成形した後に乾燥させることで、意外な作品ができることもある楽しさも味わう。少しずつ個性が認められるようになり、イベント出展も増えてきた。
11月29日から来年3月16日まで、東京都の複合商業施設「渋谷ヒカリエ」8階で開かれる作品展「NIPPONの47 2025 CRAFT47」(D&DEPARTMENT主催)に出展する。47都道府県を代表する作家47人を紹介する企画で、作り手の意志や地域文化、個性を表現する作家が選ばれるイベントだ。
独立当初からの目標だった東京での展示は今後への励みにもなる。「旋盤加工という決まった作り方の中で、自分の持ち味をどう出せるか、いろいろやりながら見つけていきたい」と土屋さん。良質な木曽材の個性を表現しながら、歩みを進めていく。