本を読む楽しさ独自視点で発信―松本で独立系書店開いた月元さん

小さくてもお客さんのニーズに応えられる行き届いた本屋に―。松本市女鳥羽1に11月、「ブックスエコーロケーション」がオープンした。全国チェーンの書店で17年余勤めた月元健伍さん(40)が、自身の好きなSF関係の本を中心にそろえた独立系書店だ。
7坪(約23平方メートル)の店内には約千冊。SF小説などフィクションのほか、童話、女性作家の作品、松本城や県内の文化遺産、サッカー関係の本などが並ぶ。「県内(の書店)ではうちだけ」の貴重な本もある。全体では「新刊が2割、古本が8割」という。
読書会も隔月で開く計画。地域で書店が減っている昨今だが、「本を読む楽しさを知ってもらいたい」と、独自の工夫で本の魅力を発信していく。

「小さな書店」松本ならできる

松本市女鳥羽1の幹線道路沿いにある小さな書店「ブックスエコーロケーション」。
代表の月元健伍さんが店名に選んだエコーロケーション(反響定位)は、クジラやコウモリなどほ乳類の動物が音や超音波を発し、その反響によって周囲のものと自分の距離、位置関係を知ることを指す。「読書を通じて、自分が今どんなところ、どんな位置にいるのか知る手掛かりをつかんでもらえたら…」との思いを込めた。
出身は岡山県。大学を卒業後、全国チェーンの書店に就職し、松本に配属されて以来、今年5月まで17年余を松本地域の店で過ごした。独立は「気負った結果ではなく自然な感じ」と静かに話す。コロナ禍で一時期、書店に客が増え多忙を極めたことが、自身の「働き方」を考えるきっかけにもなった。
全国的に書店の閉店が相次ぐ一方で、独自の選書を行う独立系書店が存在感を増しつつある。「大規模の店か、小さな店か。一人でやれる範囲は限られるが、小さければ棚づくりにも目が届く」と月元さん。それが「本屋として生き残っていく形だろう」と予測した。
「松本はいいバランスの街」だと思う。都会的な面がある一方で、城下町の古さ、歩いて回れるコンパクトな街、文化的な土地柄…。「小さな店が機能する都市ではないか」との見方も、独立を決意した要素だ。

店頭には、「得意分野」とするSFなどのほか、一般の書店では取り扱っていない本も並ぶ。例えば個人の出版社・書肆(しょし)imasu発行の『城崎にて四篇』は、森見登美彦さんら作家4人全員のサイン本。5冊仕入れ、既に4冊が売れた。『訳者あとがき選集』(越前敏弥著・HHブックス)も希少だ。
一方、『舟を編む』(三浦しをん著)など女性作家の作品群が目に留まる。妻の佳里菜さん(30)が選んだコーナー。月元さんが勤務した書店でアルバイトとして働いた佳里菜さんも「本が好き」。一箱古本市などに参加した経験から「私が読んで面白いと思った本を、他の人にも読んでもらいたい」とほほ笑む。

月元さんは個人の活動で2010年から、一冊の本を読んできて感想を述べ合う「読書会」を市内で開いてきた。「いろんな人の意見があり、違った見方、読み方が聞ける機会」とし、その活動を継続する。
店内で初、通算では78冊目となる「やつはみ読書会」は21日午後4~6時に開く。今回は筒井康隆著のSF小説『残像に口紅を』。参加費500円。
営業は、12~3月は正午~午後6時(4~11月は午前10時~午後7時)、火・水曜定休。同店TEL050・1321・9541、メールyatsuhamicafe.reading@gmail.com