表情多彩な“雨氷美術館” 美ケ原高原王ケ頭・早朝の幻想的な光景

自然がつくり出す色鮮やかな芸術作品

美ケ原高原王ケ頭(2034メートル)山頂一帯で11月18日早朝、目が覚めるように鮮やかな「雨氷(うひょう)」現象に出合った。雨氷は氷点下になっても凍っていない冷えた雨粒が、木や枯れ草、コケなどに付着して瞬時に凍る珍しい気象現象。氷の花のようにもガラス細工のようにも見える自然がつくり出した造形に、マクロレンズで迫った。

まるで輝く“ガラス細工”

午前6時半。気温は0度から急降下して氷点下3.8度に。雨粒が雨氷へと変わる。撮影は、車道沿いに目立つレンゲツツジに付いた、不思議な形の雨氷から。枯れ草の中で黄葉が目立つカラマツの幼木は、雨氷をびっしりとまとって存在感を見せている。
午前7時。高さ約1メートルのこけむす岩の背後に回る。コケの花(胞子体)を包む直径約5~6ミリの球形の雨氷は、中に朱や緑の花が透けて見え幻想的。ガラス細工を思わせる。気になっていた登山道沿いのシシウドの撮影に向かうと、直径25センチほどの大きな枯れた花に雨氷が付き、冬景色の中で開いた花火のように輝いていた。
午前8時。マツ、モミ、コメツツジなど雨氷に覆われた樹木を撮影する。夏に黄色い花が鮮やかなマルバダケブキの群落を訪れると、立ち枯れた花や茎に雨氷をまとい、静かにたたずんでいた。約60本のカラマツの幼木が1カ所に群生する、珍しく不思議な光景に出合う。雨氷によって色鮮やかに浮かび上がった幼木は、海底でそよぐサンゴのようだ。
午前9時。氷点下2.8度。吹き付けていた霧が収まり、明るさが戻ってきた。“雨氷美術館”を思わせる、こけむした岩の地点へ大急ぎで戻る。雨氷の輝きや彩りが早朝と全く違う。幸運にも脳裏に描いた多彩な光景が広がり、大自然が味方するかのように、所々に日差しのスポット光が当たる。
急に撮影が忙しくなった。コケの花に付いた丸い雨氷が、目覚めたように輝く。差し込む斜光線が立体感を際立たせ、被写体に新たな命を吹き込む。日差しを浴びるシシウドが撮りたくて、チャンスの光をひたすら待つ。流れる雲の切れ間から、差し込んだ一筋の光に浮かび上がるシシウドは“雨氷花”。撮影は、被写体の生命力の表現にこだわった。
光を追いかけながら雨氷に命を吹き込む撮影は、午前10時すぎまで続いた。