本当に朝ごはんは大切
【やじま・しより】35歳、塩尻市宗賀出身。松本大人間健康学部健康栄養学科卒。同大にて管理栄養士資格取得。塩尻・松本市内の介護施設などで管理栄養士の職を歴任。2024年8月、創業。
塩尻市宗賀1299‐24 (塩尻駅中 ワインバー「アイマニ」にて)☎080‐5141‐9783
―食べる大切さを学ぶ
塩尻市宗賀にあるぶどう果樹園の「矢島園」で生まれました。
幼い頃からスポーツが好きで、小学校時代は水泳を習い、中学はソフトテニスを始めました。松商学園高校に進学しても続け、本格的に活動し、インターハイ出場経験もあります。
部活に明け暮れ、体も丈夫になったと思ったのですが、高校時代に一度大きな貧血を起こしました。幼少期から一度もなったことはないのですが、極度の状態になりました。
運動量と食事量が見合っていなかったようです。試合や練習後の食事の取り方があまり良くなく、疲労回復に時間がかかり、蓄積していたようです。
また、同じ時期に祖父が胃ろうとなり、口から食事を取れない状態になり、すごく苦労している姿を目の前で見ました。
口から食べる重要性を実感し、学びました。興味が高まり、進学して将来は管理栄養士になろうと決意しました。
松本大の人間健康学科に入学しました。大学が、地域と深く連携するスタンスだったので、インターンとして県畜産試験場や県食肉公社などで、現場実習がかなりできました。学会で論文の発表もさせてもらいました。熱心な仲間に恵まれたことも財産です。管理栄養士の資格を取得し卒業しました。
―管理栄養士
卒業後、松本市寿にある特別養護老人ホーム真寿園で3年働き、その後、別の高齢者施設などで10年近く働きました。
新設された施設でも、管理栄養士としてオープニングスタッフになり、調理の現場などさまざまな業務を学べました。
―朝ごはんビジョン
2023年の5月くらいに研修があって、「朝ごはんを取る人が減っている」「野菜の摂取量が減っている」というデータを見て学び直しました。
大学時代に同じことを学んでいたけど、さらに下がる傾向があることに疑問を感じました。理由を考えながら、これまでの仕事を振り返りました。
管理栄養士としてこれまで何千人もの食事を見てきましたが、長生きする人は、最後まで食べる意欲がある印象です。また、施設で過ごすほとんどの高齢者は、「家に帰りたい」と何度も訴えます。祖父も同じことを話していました。
朝食減の傾向は知られているのに、歯止めがかからないのはなぜだろう。人生の最後まで家で暮らすには、何が必要か―。
漠然とですが、今までとは違う形で、何かできることはないかと考え始めました。
―ビジョンを固める
インターネットで塩尻市にある「シビック・イノベーション拠点スナバ」を見つけ、創業の形を模索し始めました。
正式に入会し通い始めると、塩尻商工会議所の方々とも出会えました。まだ、ぼんやりした創業ビジョンでしたが、同時進行で塩尻商工会議所の創業スクールにも通い始めました。
スナバでは、ふわっとしたビジョンを形(売り上げ)にするにはどうするか、どんな顧客層にするかなどを考え、創業塾では損益や管理会計など実務を学びました。少しずつ計画化し、店舗を構える構想もありましたが、現実的ではないことが分かりました。
計画をつくる中で、「自分の店を持つことが夢ではない。ただ朝ごはんを提供するのではなく、地域の人がなるべく自宅で元気に暮らせる方法を増やすことが目的」と、だんだんビジョンが固まってきました。
―細く長く続けたい
インスタグラムを検索していると、諏訪市でおにぎりの朝ごはんを提供している方を見つけました。居酒屋を間借りして金土日のみ営業する方式でした。
実際見学すると大変参考になりました。塩尻商工会議所に相談したところ、現在の店舗を紹介してもらいました。塩尻駅にあるワインバー「アイマニ」です。塩尻地域でHYAKUSHOという農業をベースにさまざまな事業をしている会社が運営する店でした。田中暁社長を紹介してもらいました。
田中社長は農業コンサルタントをしている関係から、塩尻商工会議所の専門家派遣制度にも所属されていました。メニューの内容から売り上げなども相談し、「アイマニ」の朝ごはん事業という形で進めていくことになりました。
24年2月に本格的に事業化計画をまとめ、7月からプレオープン営業を何度かこなしました。プレオープンから塩尻駅の週末の、朝の人の流れも分かったし、価格帯などを調整していけました。
最初は和食中心でしたが、どうも「コンセプトが緩い」感触でした。そこでメニューを見直し、発酵食品に振り切る方針に変更しました。
8月30日にオープンし、1カ月間は、金土日で営業しました。ですが、果樹園の仕事などで、一人では回せなくなり、現在は土日の営業です。3カ月たち、黒字化してますが、大きな利益は出ていません。細く長く続けられれば良いと考えています。ささやかでも地域の方々の健康をサポートできれば、という思いでやっています。
創業に当たって、地元の多くの方々から応援の声をかけてもらいました。地域に貢献したい気持ちがさらに高まっています。
店舗がないスタイルなので、逆にお声をもらえば、いろんな所で朝ごはんを提供できる。いろんな形でやってみたいです。 (聞き書き・田中信太郎)