大きな声にとがったせりふ、場面ごとに見せるさまざまな表情は、初舞台とは思えない存在感だった。松本市空港東の西脇明日香さん(24)は11月、同市を拠点に活動する劇団「シアターランポン」の公演「音楽茶番劇ラスタマオ」で客演した。演劇に携わり6年ほど。その魅力に引かれつつ別の仕事も経験するなど、模索を続けている。
子らにも心解き放つ場を
松本市内の特設会場で行った公演は、14日間で17回のロングラン。それぞれ旅に出た6歳の双子の兄弟が、旅先でさまざまな人や環境に出会う物語で、西脇さんは幕間(まくあい)(一幕が終わって次の幕までの間)の芝居で感情を持つセミを熱演したり、奇抜な衣装の軍曹の役を滑稽に演じたり。
「全力で飛び込むパワーと瞬発力がすごく、予想以上のことをやってくれた」と、劇団代表で演出もした武居卓さん(39)。西脇さんが演劇の真骨頂を発揮する姿は、自身の学びにもなったという。
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西脇さんが演劇に興味を持ったのは高校2年生の時。まつもと市民芸術館で上演された俳優・古田新さんのミュージカルを見て大興奮し、勢いで卒業後に劇団俳優座演劇研究所(東京)へ。芝居の基本を3年間学んだ。
研究所を卒業し、いったん演劇から離れようと、沖縄・石垣島と北海道のリゾートでアルバイト。母校・南安曇農業高校(安曇野市)の実習助手の募集に応じて昨春地元に戻り、芝居経験があることから演劇部の顧問を任された。
生徒の成長を見るのは張り合いだったが、「自分もステージに立ちたい気持ちがあった」。1年で退職し、高校生の演劇ワークショップを指導したシアターランポンの俳優らとの縁で、今回の出演依頼を受けた。
いざ稽古に入ると、緊張して力んでしまうなど、うまく演じられなかった。それでも先輩俳優の熱意や指導に引っ張られて本番へ。毎回ほぼ満員の観客に囲まれながら、「自分の体や声を使って表現することで、とても満たされた」。舞台は自分を解放できる“居場所”だった。
役者にやりがいを感じたが、演劇は演じるだけではない。夢は、不登校などの子どもたちを対象にワークショップを開くこと。自身も小学2~6年生の時に不登校で苦しんだ。「自分を抑えつけてしまう子に、心を解放できる場を提供したい」
「ラスタマオ」での自身のせりふで、最も印象に残ったのは「この世に本当のことなど一つもないからなぁ」。そんな世界を楽しみつつ、これからも演劇と関わっていくつもりだ。