山形村上竹田の古川敏夫さん(94)は、自費出版本「故里(ふるさと)秘話島和尚ものがたり」を出した。4年の歳月をかけ、幼少期から身近な存在だった同村の浄土宗「無性山見性寺(けんしょうじ)」の住職にスポットを当て、当時の歴史を物語にしてつづった。
見性寺住職にスポット当て
約200年前の江戸時代後期。徳川政権下では、宗教や寺には厳しい戒律があり、寺には「女人禁制」のおきてがあった。そうした時代の見性寺の的応(たくおう)住職の話だ。
倒れていた若い女性を人助けと思い、面倒を見ていた的応住職。その結果、禁制を破ったとされ、島流しにされたという。
本はこうした史実に基づいており、分かりやすくするため、古川さんなりのアレンジを少し加えた。当時の社会情勢や住職が島流しに遭った後の暮らしなども伝えている。
「後世に残して」託され一念発起
本の書き出しに「私の子どもの頃の遊び場はお寺の庭でした」とあるように、古川さんは幼い頃から、近所のこの寺でよく遊んだ。「友達と過ごした大切な場所」ともつづっている。
また、父から地域の歴史について話を聞き、20代の頃に地元の長老から、「地域の歴史が後世に残るように努めてほしい」と託された。そのことがずっと心に残っていたという。卒寿の大きな節目を迎え、「(長老の期待に応えるため)取り組んでいかないと」と一念発起した。
4年の間、資料を探し、解読するなど精力的に勉強してきた。見性寺の末寺である穴観(あなかん)音(のん)(同村)を守ってきた永代当家で、当時の住職と親交が深かった上條笹兵衛の来孫(らいそん)(5代目)である功一さんから話を聞いた。さらに、的応住職が島流しに遭った後に送ってきたという手紙や口伝の記録なども見せてもらった。
それらの記録を古文書講座の講師らに依頼して、解読するなど理解を深め、知見を広げた。古川さんは、「内容に食い違いもあり、理解に苦しむ部分もあったが、ありのまま記述することを大切にした」と振り返る。
地域の歴史についてまとめた自費出版本はこれが3冊目という古川さんは、「核家族化が進む中、地域の歴史や文化について家族で話す機会が少なくなったと感じる。時代が生んだ悲劇だが、村の歴史としてしっかりと残したい」としみじみ語った。
A5判、67ページ。400部発行。千円で販売している。問い合わせは友人で協力者の野口さんTEL0263・98・2836