【特集・巳年に期す再生】30代 新たな可能性を信じてー松本のボクシングジム所属3人の“オールド・ボクサー”リングに立つ

リング上で必死に戦う(左から)土屋さん、望月さん、村上さん

スーパーバンタム級4回戦を戦った
土屋良真さん、村上由樹さん、望月太朗さん

30代後半の3人の“オールド・ボクサー”が口をそろえた。「俺はまだまだできる」と。
松本ACE(エース)ボクシングジム(松本市渚2)所属の土屋良真さん(37、同市寿中)、村上由樹さん(36、塩尻市大門七区)、望月太朗さん(36、松本市蟻ケ崎)は2024年11月、同じリングに立ち、それぞれが戦った。
土屋さんは勝利したが、2人は惜しくも涙をのんだ。リングに上がる前の覚悟の決め方も三者三様だったが、試合後には、冒頭の自分の新たな可能性を信じる言葉を語った。

「まだまだできる」伝えたい…

土屋良真さん、村上由樹さん、望月太朗さんは24年11月19日、東京新宿歌舞伎町の「新宿FACE」という会場のリングに立ち、3人ともスーパーバンタム級(55.34キロ以下)4回戦を戦った。
先陣を切ったのは、松本市内の病院に勤務する医師の土屋さん。2023年にプロデビューし、この日が2戦目。デビュー戦は、試合前日の計量後に体調を崩し、惨敗した。
「この試合の結果次第で、続行とか引退とかは考えていなかった」。しかし勝利には貪欲だった。1R(ラウンド)から積極的に前に出て、試合の主導権を握ると、3Rに有効打を連発し、TKO勝ちした。
プロ初勝利後、「この年になると、周りの『いつまでやってる』という声が聞こえる」と明かした上で、「(この勝利で)『勝ってるからいいじゃん』と言い返せる」と胸を張る。そして「勝利がこんなにうれしいとは。勝ったことで、また一回り強くなれる」と語った。

続いて登場したのは、塩尻市北小野の工業薬品製造「信陽」の会社員、村上さんだ。格闘技経験はないが30歳からボクシングを始めた。24年3月にプロデビュー(判定負け)し、この日が2戦目。「連敗したら世話になった人たちに失礼になる。引退か」という覚悟で臨んだ。
10歳以上若い相手に序盤から攻められ、防戦に。最終4Rに必死の攻撃を見せたがかわされ、判定負けした。
「引退覚悟だったが試合後、1週間ほど休んだら、体が勝手に動いていて、気持ちも『次』と考えていた」と苦笑い。ジムの髙山祐喜会長(38)らに「現役続行」を懇願。「おまえならそう言ってくると思っていた」と言葉が返ってきたという。
「連敗は正直悔しいが、引きずっていてもしょうがない」と切り替え、「2戦目を戦っていて、自分の伸びしろを感じた」と手応えも。「25年は一皮むけ、三度目の正直に挑みたい。そして、30歳を過ぎてからでもボクシングができることを、同世代の人に伝えたい」と意気込む。

最後にリングに上がったのは塩尻市内の会社に勤める望月さん。松本工業高1年時にボクシングを始め、県内の高校生として初のプロに。デビューは3年生の05年7月。2度の引退を経て、この日は10年半ぶりの「再々起戦」だった。
一回り以上年下の相手に1Rにダウンを奪われ、3Rにも再びダウン。「そんなにダメージはなかった」が、レフェリーに止められTKO負けした。
「負けたら心が折れるかなと思っていたが、止められた瞬間、悔し過ぎて『次』というスイッチが入ってしまった」と望月さん。
今年は体を一から鍛え直し、一つ下の階級、バンタム級(53・52キロ以下)に転向。過去の実績から6回戦で戦う。プロ13戦を戦った顔には、無数に浴びたパンチの跡が残る。その顔を笑顔にして「好きなんですね、ボクシングが」と言った。