【特集・松本の街】松本パルコ、井上百貨店が閉店 中心市街地への影響に不安の声ー街の課題や将来像思い思いに語り合う

松本市で情報や流行・文化の発信地として大きな役割を果たしてきた松本パルコ、井上百貨店が、今年の2、3月に相次いで閉店する。中心市街地の空洞化や跡地利用などの不安に加え、周辺への影響を心配する声も少なくない。これから松本の街はどうなるといいのか、課題は何かなどを、市内に在住、通学する高校・大学生、社会人の5人に語ってもらった(敬称略)。

Q.住んでみたい、わくわくする街とは?

藤野真衣(以下藤野) イベントだけでなく、常に活気があり、歩きたくなる街に住みたい。そうなれば若者も出て行かないと思う。
篠田恭椰(以下篠田) 仕事帰りに、松本城大手門枡形跡広場や市立博物館に立ち寄り、ボードゲームを楽しむ―。そんなちょっと寄り道して遊べる場所が増えたらいい。
山本桂子(以下山本) 昨夏、オーストラリアのメルボルンに行った。街の中心部を走るトラム(路面電車)は無料で乗れて、国立ビクトリア美術館も無料エリアがあり、いろいろな人種がいて違和感がなかった。多様性、自由さに心が躍った。松本は中心市街地のビジョンがない。追求していきたい。
田中洸介(以下田中) トラムなど、バスと違う交通網があればいい。時間に正確で輸送力もある、車以外で動くシステムがあれば住みやすいのでは。
横山加奈(以下横山) 個性的な街。常設店を持てるなど、物作りを追求する人を応援する街がいい。

Q.街でどんなことができたらいい?

篠田 松本の店は、ふらっと立ち寄ったり、お金を使わずうろうろしたりしづらい感覚がある。店が場所を開放する、店で体験ができるといったカルチャーが広がればにぎわいが生まれるのでは。マルシェは気軽に行けて音楽が聴け、時間がつぶせる。小商いが集まれば新しい街の在り方につながる。どんどん仕掛けたい。
古田俊光(以下古田) 松本は、プロでない人がマルシェを開ける面白い街。一つの特徴だと思う。
田中 小商い、個店が魅力をアピールし、客もその店の取り組みに参加できる街がいい。高校生が他校生と連携する機会がない。意欲のある者同士が手を結び、主体的に何かできるといい。
横山 大型店で販売実習をし、街中で自分たちだけの店舗を持ちたいと思った。大人も同じ気持ちがあると思うので、マルシェが常にできる空間があり、あまり高額でなく借りられたらわくわくにつながる。松本の美術館や博物館は低料金で入れるので、遊んだ後に立ち寄れるのはうれしい。
藤野 縄手通りの江戸時代のような景観が好き。浅間温泉は空き家が多いので活用しては。小さくても博物館、美術館があれば行きたいと思う。
古田 浅間温泉は伸びしろがある。市民が入り込める良さがある。
山本 女鳥羽川河川敷と、川沿いの縄手通りの二つの空間を生かそうと、2011年に「水辺のマルシェ」を始めた。単に物を売るのではなく、空間をどう使いたいかが大切。藤野さんは浅間温泉とどう関わっているのか。
藤野 信州大の1~3年生が主体になり、昨年、実際に温泉を歩くことから始めた。何ができるかはこれから検討する。
古田 街づくりは人づくり。アイデアを持っている市民がチャレンジできる。松本には城も旧開智学校校舎もある。大型店閉店などの状況は、プラス思考で考えると、とてもわくわくする。

Q.松本で残したい場所やものはある?

古田 まつもと未来マルシェで約300人から得たアンケート「残したいもの」のダントツ1位はイオンモールだった
篠田 学生が中心市街地の面白さに気づかず、市外へ出て行ってしまうことが課題。松本駅近くにラーニングセンターのようなものをつくり、学生が交流したり、社会と出合ったりする場があれば。施設内のにぎわいが、外にあふれ出ないのが商業施設の課題。中と外がつながり、にぎわいを創出できる大型施設があってもいい。
古田 イオンモールができたことで、近くの日の出町ににぎわいが生まれた。つながりは大切。
藤野 パルコ跡に図書館が欲しい。館内に松本の展示コーナーをつくれば、みんなが寄りたくなるのでは。大型店は便利な半面、そこに人が集中し過ぎて、長い歴史のある店がなくなるのが怖い。
古田 共存できるかが大切。モールがなくなり、街が壊滅状態に陥ると最悪。街中が受ける影響を考えていかなくてはいけない。
横山 小さい店、地域を大切にできる街がいい。浅間温泉の課題を考えるため、松本駅からバスで向かった。観光地を通りながらで楽しかった。土地にはそれぞれの魅力がある。さまざまな経路でたどり着けるようにし、全体を巡れるようになれば。いろいろな所で魅力をつくり、それをつなげたらいい。
田中 何でもかんでも中心市街地にまとめるのではなく、外に置くことも必要。そこに行く目的ができるから動線ができ、にぎわいが生まれる。歩く、バスに乗るなど自分の目で見ることで魅力が見つかる。動きやすいシステムを導入できれば。松本はちょうどいいサイズ感の街。うまく回れるバスを土日曜のどこかで走らせるのも面白いのでは。
山本 歩ける街、のんびりした街を目指したい。大好きな映画館がある街だといい。私たちが使える駐輪場も欲しい。百貨店がない街は街じゃない。井上を守れなかった市民って…。花時計公園と松本駅前記念公園を生かしてほしい。パルコと井上の跡地に何かが生まれた時、この二つの公園をどう活用するか。この視点で考えるとものすごく変わると思う。

Q.松本の未来の姿をどう考える?

横山 くもの巣のように交通網がいろいろなところにつながる。住民が好きな場所、通りを観光客に答えられるなど、自分の世界感を持てる街に。
田中 列車旅と酒蔵などを組み合わせたJR東日本のスタンプラリー「集え!駅酒パート」は面白い。交通と共にある街は、人の動きが目に見える。こうしたシステムを導入すれば、松本に来やすくなり、松本の生き残りにつながる。
山本 公共交通と自転車で移動できるのが一番大事。ここをしっかりすれば高齢化の時代に備えられるのでは。
篠田 どんな街にするかを、市民と関係者が共に熟考することが大切。大企業だけが背負うのではなく、事業者が多い方がリスクを分散できる。いろいろな立場の人が関わりできる街、建物がいいと思う。
藤野 今の松本の景観を維持できればいい。松本ならではのパノラマをもっと考え、話し合いをしながら発見していくべき。上高地線で、子連れイベントなどができれば面白い。バスは高齢者などにとって不可欠。路線廃止の対策ができれば。
古田 交通は大事。雑談でいいから、松本の未来について気軽に話し合える場所をつくっていきたい。みんなで考える、話し合うことは、松本にとって本当の意味での財産になると思う。

◆司会
古田俊光(53、城西1) 化粧品販売会社社長。中高生、大学生らが参加した「まつもと未来マルシェ」実行委員長
◆参加者
山本桂子(元町) 「たい焼きふるさと」(縄手通り)経営。市民観光ポータルサイト「新まつもと物語」運営・記者。松本都市デザイン会議代表。愛知県出身
篠田恭椰(25、蟻ケ崎台) 松本市内の設計事務所勤務。信州大工学部卒、同大大学院修士課程修了。名古屋市出身
藤野真衣(19、岡田松岡) 信州大経法学部1年。神奈川県出身
田中洸介(18、塩尻市) 松本工業高電気科3年
横山加奈(18、旭) 松商学園高商業科ITコース3年、BIT(ビジネス情報技術)部部長