人的資本経営の浸透
【すがの・ともゆき】65歳、松本市島内生まれ。富山県立富山南高校卒。1979年ブリヂストンタイヤ長野販売入社、マーケティング業務全般に携わり、2019年11月退職。2023年7月「ビジネス&ライフシフトサポートチーム」設立。
「ビジネス&ライフシフトサポートチーム」
松本市今井3256-13 E-mail:8.sugano@gmail.com
―会社員生活は財産
松本市で生まれました。母の話だと〝よく田んぼの真ん中で遊んでいる子〟だったようです。中学まで県内にいたのですが、父の転勤で富山県の高校に行きました。
卒業後は「地元で働きたい」と考え、ブリヂストンタイヤ長野販売に入社しました。正直、大きな目標も目的もありませんでした。キャリアを積み上げていくといった明確な目標もありませんでした。
しかし、大変お世話になりました。会社が世界的企業になっていく場面に立ち会えたことは財産です。〝全社員の努力を結集し、ナンバーワンを目指す〟社のビジョンは、今も自分の体に染み込んでいます。41年勤め、とても勉強させてもらいました。
―社員のメンタル
営業として小売り事業の開拓など、マーケティングの仕事全般をして、最終的に執行役員まで務めました。
80人ほどの部門をマネジメントする立場になると多くの社員の相談を受けるようになりました。
社員一人一人に思い悩むことがあり、キャリア、人間関係など多岐にわたる上にどれもデリケートな悩みでした。2020年に退職するまでに、人間のメンタルに寄り添う大切さを非常に感じました。
退職した翌年、松本商工会議所でキャリアコンサルタントの資格取得の養成講座を受けました。
―始まり
キャリアコンサルタントを簡潔に説明すると、厚生労働省が認定する国家資格で、労働者のキャリア形成を支援するために、職業の選択や生活設計、能力の開発や向上に関する相談に応じる専門家のことです。
講座は、とてもインパクトがあり、奥が深く新しい世界と出合えたと感じました。さまざまな相談を受けた前職のことを思い返して、キャリアコンサルタントは人生100年時代に向けた社会インフラとして必要不可欠な存在だと認識しました。
資格は無事取得できました。講座を受けている間に松本商工会議所と縁ができ、「地域の人事部」の仕事を始めることになりました。
―人的資本経営
経済産業省では、「人的資本経営」とは、人材を『資本』として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方と定義しています。関東経済産業局から松本市に話があり、22年度から松本商工会議所が受託し人的資本経営を推進するためのモデル事業として「地域の人事部」が始まりました。
「地域の人事部」は、地域の企業群が一体となって、地域の自治体・金融機関・教育機関等の関係機関と連携し、将来の経営戦略実現を担う人材の確保(兼業・副業含む)や域内でのキャリアステップの構築等を行う総合的な取り組みです。24年度までの3年間は補助が受けられますが、25年度からは自走化を進めていくことが課題となっています。
松本商工会議所が自走化を検討する中、1年半ほど経過した時に声をかけてもらい、スタッフとして企業ヒアリングや若手社員向けのエンゲージメント向上研修などを開催して、多くの若手社員と触れ合う機会をもらいました。
短期取材型のインターンシップや副業兼業人材マッチングイベント、報告会など、松本商工会議所とやってきた中で、自走化するために法人を立ち上げることとしました。
現在、一般社団法人化の準備を進めています。
―伴走支援
現在、これまで松本商工会議所が進めていたものをベースに、自走化に向けてのメニューを検討中です。
具体的には、①組織開発の伴走支援(対話と傾聴)②業務プロセス、営業力強化、品質(製品、サービス)向上など改善活動③健康経営やエンゲージメントの伴走支援④科学的人事としてデジタル技術を活用したDX推進事業⑤企業・学生を対象にしたインターンシップコーディネート事業⑥学生向けキャリア教育支援⑦社会人向けキャリア自立支援―の、七つのプログラムをメインとして進めていきます。
特に①の伴走支援は、力を入れていきたいです。また、デジタル化が進む大手企業の人事システムを見ると、最近特に地方の中小零細企業との差が大きくなっていると感じます。④の科学的人事としてデジタル技術を中信地域に力を注いで発信していきたいです。
事業を考える段階で、個人的にも勉強できました。経産省が展開してきたことですので、地元だけでなく、関東経済産業局の担当者から話を聞き、他県の同事業の視察などもしました。
また海外、特に北欧・デンマークの環境なども勉強できたので、取り込んでいきたい思いもあります。
―これから
自走化して新しい体制にしてからも「人的資本経営」を浸透させていくことが目的になります。まだまだ一般には浸透していないのが現状です。
具体的には、人材の価値を最大限に引き出せる環境づくりや経営手法を導くことが目標になります。地域企業、特に中小零細企業の業務改善を目指し、売上改善や企業成長につなげることが最終目標です。
そこに第三者が携わり、経営者の考えを変えていくことは、容易ではありません。これからやることはとても難しいかもしれませんが、松本商工会議所の活動を引き継げればと思います。
地域企業のキャリア開発や定着、人事のデジタル化はインフラとしてかなり必然と感じています。知識や経験を生かし、継承から新しい地域の人事部を構築し、自走化を目指し準備していきたいです。