「恩送り」で親も子も心を解放できる居場所づくり 「地球とあそび隊」押川さん夫妻

子どもも親も楽しめる居場所づくりを─。2021年に埼玉県川口市から、安曇野市三郷小倉に移住した自営業の押川豊さん(54)、海香(みか)さん(38)夫妻が24年9月から、「地球とあそび隊」を開いている。フラワーアレンジメントを楽しんだり、音楽の生演奏を聴いたり、焼き芋を作ったりと、大人も子どもも心が解放される場所だ。
移住前、責任感の強さから、海香さんは子育ての重みを痛感。一対一の時間が苦痛なこともあった。そんな時、保育園の一時預かりを利用し、1人でカフェの席に座った時の気持ちが忘れられないという。「手足に血が回るような解放感を覚えた」
受けた恩を今困っている人に渡す、恩のバトンタッチ“恩送り”をしようと決心した。

お菓子や生演奏多彩な体験提供

昨年12月21日、ファインビュー室山(安曇野市三郷小倉)で開いた「地球とあそび隊」には子ども60人、大人40人ほどが参加した。「わたしのこころの花」のコーナーでは、子ども用プールに浮かぶ生花をすくい、フラワーアレンジメントに挑戦。ピアノとパーカッションのデュオ「espresso(エスプレッソ)」が、ジャズやポップスを演奏した。
オーガニック菓子喫茶があったり、おつまみナッツを販売したりと、盛りだくさんの体験型の内容に、会場は笑顔であふれた。企画運営は押川豊さん、海香さん夫妻。同市の「子どもの居場所づくり支援事業補助金」を受けて開く。
豊さんは「この辺は山の中でさみしい。公園はあるが、遠くへ子どもたちだけで行かせるのは不安もある」と話す。そんな環境をなんとかし、近所の子どもたちが遊べる場所をつくりたかったという。参加した子どもや大人の笑顔を目にし、「うれしい」と笑顔を見せた。

旅行で来て、「ここに住みたい」と感じた安曇野に、2021年に移住した。翌年、「地球と人を笑顔に、元気にしたい」と、地元のオーガニック素材を使った菓子喫茶「かまどのかみさま」を開いた。命を守ることにつながると、食材などへのこだわりを基盤に据えた。いろいろな人とつながる中で、「子どもの居場所をつくってほしい」といった声が聞こえてきた。
「子ども食堂を開いてはどうか」と打診を受けたが、海香さんにはしっくりこなかった。食事を作って子どもに食べてもらう形に、何となくなじめない。

子どものために親にも支え必要

「子どもが最も安心できる居場所は、笑っている親、大切な大人の腕の中」というのが海香さんの持論。自分の経験から得た考えだ。「親が疲れていたら子どもは気を遣い、自分を出せず、子どもらしさを失う」
移住前、「子育てが永遠に続くのではないか」と感じたことがあった。子どもは好きだが、社会に関わりたいという思いも強く、子どもと一対一で過ごす時間はつらかった。それを乗り越えたのは、いろいろな人の手を借り、心を支えられたからだという。
近くの喫茶店で作ってもらった食べ物を口にした時、涙がこぼれた。前述の、保育園の一時預かりに救われたことも含めて「あの時の気持ちは忘れられない」。今は、あったらいいなと思ったこと・もの・場所を形にしている。「昔の自分を癒やしたい」という気持ちもある。

多くの人から受けた恩を、今困っている人に渡したいという。海香さんはそれを「恩送り」と表現する。恩のバトンを受けた人が、どんどん次の人、世代に渡していく。そんな温かい気持ちが受け継がれた場所が、親にも子にも、最高の居場所になる。
「地球と─」の次回は2月2日午後3時半、ファインビュー室山で。石川県を拠点に活動する紙芝居師なっちゃんが登場し、参加型の「わくわく紙芝居」を上演する。問い合わせはファインビュー室山TEL0263・77・7711