
空に浮かぶ雲や道端の植物、床に落ちている紙。何げなく見ればそれまでだが、意識して見てみると─。羽田隆明さん(74、池田町会染)は、そういった目であらゆるものを見つめ、その造形から想像力をかき立てる。そして何かを思い付けば、それは絶好の被写体。写真に収め、独自の作品に仕上げる。「偶然の出合い」から「羽田ワールド」をつくっているのだ。
撮影に使うのは、スマートフォンが登場する前の、携帯電話「ガラケー」のカメラ機能。目に入るあらゆるものを意識して見つめ、想像や妄想を刺激されれば、シャッターを押す。
例えば、雲を天女に見立てたり、コーヒーの中に笑う女の子を見つけたり。こうして撮りためた作品を「面白視野心館(おもしろしゃしんかん)」と名付け、自身で鑑賞するほか、友人知人に見せるなどして楽しんでいる。
すべてが偶然の産物で、「この場所で、このタイミングでシャッターを押したのは世界で自分一人だけ」と自慢げだ。
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写真を撮り始めたのは1992年。天使に見えた雲を捉えたのがきっかけだ。「自然がつくり出す面白さに引かれた。撮った写真を見て、新たな形を発見することもある」と羽田さん。「人に見てもらうと、自分が考えた形と違うものを言われることもある。それがまたわくわくする」
これまでに撮影した枚数は数知れず。時には1枚消去しようとして全部消してしまったことも。また、せっかく見つけたいい形の雲も、数秒で形が変わってしまい撮り損ねたことも少なくない。そんな時は、「こんちくしょう!次はもっと、いいものを撮ってやる」と自分を奮い立たせている。
想像力をかき立てる対象を見つけ、写真に収めるのは、羽田さんにとって絶好の気分転換。「誰にも理解してもらえないかもしれないが、こんなことで楽しい気持ちになれる。作品が、見てもらった人の心に少しでも届けばちょっぴりうれしい」とほほ笑む。
羽田さんは障がい者共同作業所「ハーブの風」(池田町会染)の理事長を務める。仕事の一つに、毎年のカレンダー製作がある。月めくりで、どの月にも、版画の絵と一緒にユニークな一文が添えられる。
「くすりと笑うのも心のお薬」
羽田さんのモットーだ。写真にもそんな思いがあふれている。

右:「ボウリングをする少女」。葉にできた染みだ

