
麻績村地域おこし協力隊農業班の堤純一さん(28、埼玉県出身)は4年の任期を終えて今春、主にリンゴを栽培する果樹農家として独立する。来年には同じ隊員で妻の香保里さん(36、大阪府出身)も加わる。農業を学ぶさなかで出会った二人は「誰かに贈りたくなるような商品を作りたい」と意気込んでいる。
農業班で技術と知識学ぶ
高齢で農業をやめることを考える農家の畑や遊休農地を村が借り、協力隊員の研修に使う村の制度で、現在管理している畑を引き継ぐ。リンゴはふじや秋映(あきばえ)といった売れ筋のほか、希少な品種も含めて24種を栽培。ほかにワイン用のブドウやジャム、ジュースなどの加工品も作る。
農業の経験は全くなかった堤さんだが、2021年4月の着任以来、農業班を支援する村内のNPO法人「おみごと」の指導で田んぼや畑の管理、リンゴの栽培から出荷までのノウハウなど、農業の知識と技術を身に付けた。県内外から村に移住した隊員は、これまで5人がリンゴ農家として独立している。
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堤さんは東京海洋大を卒業後、食品専門の商社に勤めた。輸入した食品を国内の加工メーカーに卸す仕事は、生産者や消費者との関わりがほとんどなく、流れ作業のように感じた。
「一から自分で作った物を消費者に届けてみたい」と農業に関心を持ち、「せっかく作るなら大好きな果物を」と、農業研修が受けられる同村の協力隊員に。マルシェや収穫祭で自身が栽培に携わったリンゴも販売し、「消費者から直接声が聞けるのがうれしかった」。
経験生かし商品開発も視野に
1年遅れで同じ農業班の隊員になった香保里さんと23年2月に結婚。独立後の屋号に掲げる「みどりや」は、新たな土地で新たな挑戦をする自分たちを新芽に見立て、「伸びやかに育っていきたい」との思いから。そのロゴは、リンゴの葉に見立てた二人の手のひらが、果実を優しく支える。
「二人で黙々と作業する時間が楽しい。心豊かに頑張っていきたい」と話す香保里さんは、隊員になる前にパティシエとして10年以上働いた経験があり、「みどりや」は、その技術を生かした商品開発も視野に入れる。
「小規模な畑だからこそ、一本一本の木と向き合えるのが強み。大事に育てていきたい」と堤さん。農業を志して移り住んだ村で、同じ志の伴侶を得て二人三脚で歩み始める。