
全国高校演劇大会(7月、香川県)の予選となる関東高校演劇研究大会・北会場(長野、埼玉、新潟、群馬、栃木の5県12校が出場。入場無料。)が25、26日、松本市水汲のキッセイ文化ホールで開かれる。中信地方での開催は20年ぶりで、地元3校が県代表になった。「練習の成果を見てもらえる絶好の機会」と励む各演劇部を紹介する。
「愛のかたち」伝えたい 松本美須々ケ丘(松本市)
「愛を語らない」(作/顧問・郷原玲教諭)26日午後3時10分開演
著名な文豪の娘として生まれたある女性の物語。大正から昭和の日本が舞台で、音楽や衣装からも当時の雰囲気が漂う。県大会では「父と娘の関係を、ユーモアを忘れずに伝えた」「衣装や道具をシンプルにまとめたセンスが光っている」などと高く評価され、最優秀賞を受賞した。
部員は1、2年生12人。練習には引退した3年生も参加して応援してきたという。
取材で訪ねた日、稽古場からは懐かしいような、踊りたくなるような音楽が聞こえてきた。練習する部員らのよく通る声、めりはりのある輝くような表情、群衆が押し寄せるような動きなど、その場に別世界をつくる熱量に圧倒された。
部長で文豪の妻・柴山春子を演じる2年吉澤美杜(みと)さん(17)は「『見せること、伝えること』を大切にしていたら結果がついてきた。本気でぶつかり合いながら模索してきた『愛のかたち』を伝えたい」。文豪の娘・柴山亜伊を演じる2年荻澤杏さん(16)は「たくさん笑って、登場人物それぞれの『愛』を感じてほしい。誰かに何かを与える作品にしたい」と目を輝かせる。
顧問の郷原教諭(44)、松﨑晃教諭(36)は「さらに洗練させ、地域の人やより多くの人に『演劇ってすてきだ』と思ってもらえたらうれしい」という。

等身大の高校生を演技 木曽青峰(木曽町)
「メグちゃんの妹」(作/顧問・福島綾乃教諭)25日午後0時20分開演
「才能と嫉妬」を題材に、ある女子高生の成長を描く物語。福島教諭(33)は「高校生だった自分にエールを送るような作品でありたい。等身大の子どもたちが頑張っている姿を見てほしい」との思いで執筆したという。
県大会では、生き生きとした演技や、見えない人物がそこにいるかのように見せる無対象演技の力量、演劇部としての意志の強さや脚本への愛情などが評価され優秀賞を受賞した。創作脚本賞でも優秀賞(最優秀賞は該当なし)に輝いた。
部員は1、2年生5人。おしゃべりと笑い声がにぎやかな稽古場だが、練習が始まると一転、静寂な空気に。
入念なストレッチと発声練習を終え、ようやくシーン練習に入る。わずかな心の揺れさえ伝わるような何げないしぐさ、同じものを何人かで見るときの視線の高さと目の動き、音響のタイミングなど細部にこだわり、気持ちを一つに合わせていく。
メグちゃん(七瀬恵)役の1年松山小夏さん(16)は「以前プロ劇団で子役だった時、メグちゃんのように劣等感を抱いたこともあった。今はみんなで一つのものをつくるのがすごく楽しい」。メグちゃんの友人・大園真帆を演じる部長の2年西尾朋佳さん(16)は「自分たちの力を発揮して観客を魅了させるような演技をしたい」と意欲を燃やす。

難題を豊かな表現力で 松本県ケ丘(松本市)
「『砂漠の情熱』より」(原作/アーネスト・トンプソン・シートン「豹(ひょう)を愛した男」、脚色/顧問・日下部英司教諭)26日午前11時開演
「言葉」を題材にした人間と豹の愛情物語。県大会では「せりふが少ない異色の作品でありながら、沈黙や動作による表現力に富んでいる」と評価され、優秀賞を受賞した。
部員は1、2年生10人。直径4メートルの円形の板全面に新聞紙を貼り、それをステージの奥から手前にかけて傾斜をつけた「八百屋舞台」で演じる。部員たちはそこで「言葉」という難題について議論し、時には脚本を書きかえ、県大会後も新たなシーンが生まれたという。
劇の状況などを説明する「コロス」などを演じる部長の2年三枝千晴さん(17)は「生きることの難しさ、愛の不確かさを、高校生が全力で演じる姿を見てほしい」。兵士で詩人の男性役の1年山﨑明(みん)さん(16)は「演劇部の毎日は刺激しかない。役になりきるのではなく、その人になって真実の『言葉』をつかみたい」と話す。
制作担当の2年百瀬心晴(こはる)さん(17)は関東大会生徒実行委員長を兼務し、ウェブ制作や出店する飲食店との打ち合わせなどにも携わり「めちゃめちゃ勉強になった」。同大会の現地実行委員長を務める日下部教諭は「予想を超え、驚くようなステージになると思う。各校の特色を楽しんでほしい」と話した。