
高い関心、一般農法に応用も
稲作の有機栽培を研究している三木孝昭さん(49)は、技術指導を「翻訳」に例える。理論を地域それぞれの気候や土質に合わせて伝えることを大事にしている。一般的な農薬、化成肥料を使う慣行栽培にも「土台は一緒」と語りかける。
三木さんは、公益財団法人自然農法国際研究開発センター(松本市波田)の専門技術員。稲作の研究は20年以上になる。
農閑期の今時分も忙しい。毎週のように講演やセミナーに呼ばれる。主催者は、生産者の団体から消費者の集まりまで。行政も多い。県内外に出かけ、オンラインもつなぐ。
有機栽培の一番の課題は雑草対策だ。三木さんは、稲が気持ちよく育ち、雑草がやる気をなくす方法を勧める。稲刈り後の処理、苗作り、植え方…。詳細を昨年、書籍「だれでもできる有機のイネつくり」(農山漁村文化協会)にまとめた。
実践法は具体的だ。だが、マニュアル的に教えることはしない。「日本は南北に長い。土地に合わせて話すのが自分のやること」。現地の気象データ、土地などを調べて臨む。
例えば、代かきの目的は田んぼを平らにしたり水漏れを防いだりすることだ。2回やるのが標準だが、1回の方がいい所もある。「土地を理解しないと稲を苦しめる。それは慣行も同じだと思う」
同センターに入った頃は、有機や自然栽培のことしか見えていなかった。「これが正しい農業だ」と。だが、いろんな生産者、研究者と会って「バランスを考えるようになった」という。
市場に対する供給という面では、有機の生産はまだ不安定で、責任が持てる状況ではない。慣行が頼りだ。
一方、持続可能な農業が言われ始め、慣行でも農薬や化成肥料を減らす志向が強まってきた。有機の知見が参考になる。
「有機と慣行は二項対立ではなく、技術的な交わりは増えてくる」と三木さん。研究の関心もニーズも広がっていきそうだ。